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□June
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料理開始から10分後。
既に台所は目も当てられない状態だった。
いつも金時によって綺麗に保たれていたシンクには斬切りの野菜が散乱し、床には割れた皿が2、3枚。テーブルの上にはギリギリ人体に影響はないであろう野菜炒めに、飛び散っているマヨネーズと練乳。
犯人は、喧嘩をしながら自分の好みを押し付け合っている銀時と土方なのだが、一番状況を深刻に考えているのは十四郎だった。
「(…これは…俺が片付けるんだろうか…)」
血の気の引いた顔で立ち尽くしている。
こんなはずではなかった。少なくともご飯を食べる予定だった。しかし肝心の完成品は、どうにも健康をダイレクトに害しそうだ。十四郎は静かにお湯を沸かし、静かにカップラーメンを待った。カップラーメンのストックはこのひとつしかない。あんな凶器のような料理を目の前に、やっと放心している二人に、カップラーメンという素晴らしい料理を知られるわけにはいかない。
「(…自分の部屋で食べよ)」
こっそり自分の部屋へ行こうと歩き出した時、ふと足元が暗くなった。
「ちょいとー?チビのくせにイイもん持ってんじゃなぁい?」
「十四郎、独り占めは駄目だろ?な?腹減ってんのは皆同じだ。仲間だ」
「そうだよ〜仲間なんだからさぁ〜」
「い゛!?」
先程までうるさく喧嘩をしていたというのに、この変わり様たるや、欲望に素直な姿勢はいっそ清々しい。
銀時と土方は、ラーメンに手をかけ、グイグイと引っ張る。
しかし十四郎も、引いてしまっては、その欲望は満たせない。
「に、兄ちゃん達、や、野菜炒め…あるでしょ…?」
「いやぁ?あれは野菜炒めじゃないね。実験結果だ」
「そうだ。美味いものと不味いものを合わせたら結果不味いってゆう…」
「てめえ今甘味馬鹿にしたろ!?不味いのはマヨ」
「んだとこらああ!」
「ちょ、ラーメン掴んで喧嘩しないでっ、わ、ああ!」
「「え、」」
最後の希望は見事にカーペットに吸い込まれ、落胆と共に、忘れかけていた湿度の重さが一気に戻ってきた。
「さい、あく」
「てめえが悪いんだろ」
「あ゛あ!?」
「んだよ、やんのかコラ!」
「…はぁ」
大事な食事を失った3人は、仲良く部屋の片付けに追われた。
彼らが、そもそも料理を作るなら、クーラーをつけてもデメリットはないと気づくのは、部屋がほとんど元通りになってからだった。