小話(21〜40)

真夜中のキリン
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とん、とん、
と、軽い衝撃を感じて、葛西は目を覚ました。
隣で眠る坂本が、小さな咳をしたらしい。

葛西は、自分の胸を坂本の背中に当てて、後ろから彼を抱くように寝ていたから、咳の振動がそのまま伝わったのだ。

勝手にばらばらで寝ていても、いつの頃からか、朝にはこの体勢になっている。

はじめのうちは、朝、先に布団を出る坂本が、
「葛西、起きるから離せよ」
と、葛西を起こしていたのが、最近はそうしなくなっていた。

葛西は目の前の坂本のうなじの、首の骨を数えてみた。

ひとつ
ふたつ
みっつ

くるくると人差し指を当てて数えるが、眠りの深い坂本は起きる気配がない。

よっつめからは位置が怪しくて、想像で指を差す。

人もキリンも、首の骨の数は同じななつ。
テレビのわくわく野生の王国で、そんなことを言っていた。

起きるに至らなくても、こう触れられて、反射のような反応もないのだろうか?


最近の坂本は、葛西を起こさずに、自分で葛西の手を外すようになった。
夢うつつの中で感じるその瞬間が、葛西は好きだ。

坂本は、自分の前で組まれている葛西の手を、とても丁寧に掴む。
そして、ゆっくりとその輪を外す。

それからもう一度、いつもためらうように彼は、そっと自分の手を葛西の手に重ねてから、布団を出てゆくのだ。

葛西の意識が、浮上していることも知らずに。

この密やかな儀式に初めて気付いた時、葛西は涙が出そうなほど嬉しかった。

自分でもどうしていいのか分からないくらい、坂本が葛西を好きなのだと分かったからだ。


坂本が、骨を数える葛西の指にまるで反応しないのは、今、二人の体温が全く同じだからだろうか。

そう思った時、葛西は緩やかな眠気に誘われ、深い眠りに落ちていった。


ーーー真夜中のキリンーーー



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