小話(21〜40)

食ってまえ、青雲
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「ほんなら、反省会始めまーす」

吾郎は、新幹線の通路前方で、関○宏のように座席に寄りかかって立つと、宣言した。

図らずも修学旅行中、東京四天王と愉快な仲間達相手に、激闘を繰り広げた極東の面々。

しかもまさかの敗北。

いや、川島の心の闇も救われたし、結束も強くなった。
得たものの方がデカい。

が、最強(インテリ?)ヤンキーを目指す彼らとしては、情報解析もケンカのうち。
で、帰路での反省会。
さっすがオレら!進学校(になる予定)!!

「ハイハイハイ!」
「はい、ウメちゃん」
夜行バスで来た梅津は、新幹線の座席に上機嫌で手を挙げた。

「オレとタイマン張ったアレは、アホや!以上!」
「名前すら危ういんかいお前は!浅草の薬師寺な!」
「オレ、二人やり合うてんの見た。アホはアホでも、ウメちゃんと同じタイプのアホや」

「それ分かりやすい説明やな、薬師寺…ウメと似たアホ、と」
「ちょー!あんなんと一緒にすなや!」
「次、誰か」
「終わりかい!」

「ハーイ、あのブレザーのデカい奴、デカかった!」
「そうね!デカい奴いたね確かにね!」
やっぱりいきなり進学校て無理あるよ!!

「アレ実際、渋谷の中心は鬼塚な」
「ミョーに老成してるっつーか」
「説教くさかったわ」
畑山が、ボソッと吐き捨てた。

「あんなん、エエこと言いしぃの奴て、絶対過去はドギツいねん」
「お、出た!ジャンプの法則」
「でも改心組って、チョー人気出るで。オレもついつい応援したなるし」
「いやいやいや、何の話や!?次!」

「吉祥寺は普通に強くて普通にエエ奴らやったな」
「同じく」
「うん…ほな、次、が最後や…な…」

池袋・正道館。

「アイツらマジ最悪やで!!」
「だいたい青ランてなんやねん!あんなごっつぅ来よって」
「白ランvs青ランて、フィンランドの国旗かっちゅーねん!目ぇチカチカするわ!!」

地元でもあり、最大勢力だった正道館とは、当たった人数も多く、車内は一気にヒートアップした。

「しかもあいつら、一人一人もやるけど、ミョーに統率取れてんねん」

と、その時、その正道館の頭とタイマンを張って敗れた鷹橋が、口を開いた。
「お前ら、やり合うてて、池袋のナンバー2て分かったか?」

「「「坂本やろ。何でやタカちゃん?」」」

一斉に答えられ、却って鷹橋の方が言葉に詰まった。

「や…あの金髪、オレにタイマン持ち掛ける時、いきなり、お前がナンバー2かとか、川島さん立てるやないかみたいなこと、言い出してん」

「うわ、何その発想、軍隊!?」
「せやから、そいつんとこは、序列がはっきりしとるけど、ナンバー2が頭を立てへんのか思て。どんな奴?」

「アレな、おしゃれパーマ当たってる優男か思うたら、ごっつ強い」
「しかも周りの奴らに、もうやめとか、手薄になってるとこ行けとか言うて、目端が利きよんねん」
あんなシッチャカメッチャカの最中に。
「グラサン坊主もやりよるけど、ナンバー2は坂本や」

ちなみに、何で極東生が坂本の名前を覚えているかと言えば、乱闘前・中・後で、正道館生たちが、何かにつけて彼を呼ぶからである。
「でも、頭を立てんいうタイプには見えんかったけどな」

「あー、ちなみにオレ、負けた後、金髪に直接訊いた」
鷹橋が、ちょっと口ごもりながら言った。
「ひぇ、タカちゃんは、ホンマ、疑問即解決人間やなぁ…で?」

鷹橋の突然の質問に、葛西は眉間にシワを寄せて睨み付けてきた。
が、次の瞬間、実に全く無駄に爽やかな笑顔で、

「ウチのナンバー2ほど、オレを立たせる奴ァいねェよ!」

と言ったのだそうだ。

「ど、どう思う?」

たたせる…?
なにを…?
どんな時…?

「まず日本語間違うとるやん」
「落ち込んでる時に立ち上がらせてくれるってことやないか…?」
「苦しい時に奮い起たせてくれるとか…?」

ある意味正解を導きつつ、彼らは身内だけに向けていた、坂本の穏やかな顔を思い出してみた。
…。
…。
…。
「池袋…恐ろしい街ッ!」
「あ、アホや。東京モンは皆アホや!」

やっぱ大阪サイコー!極東最強ー!!早よ帰りたーい!帰してー!

車内に叫びが満ち、話を黙って聞いていた川島が、とうとう堪らず笑い出した。

あ、川島さん笑てる!

極東生がつられて笑う中、畑山だけが複雑な顔をしている。

実は、東京での乱闘にケリが着いた後、旅先での入院手術沙汰は「気ィが悪い」と、川島は畑山だけを連れて、山中の入院している病院にダッシュしたのだ。

すると、病院の入口で、見舞いに来た坂本と鉢合わせた。
さっきの今で、びっくり顔のくせに、まるで警戒心のない青い学ランに、逆に驚きつつ川島は説明をした。

が、坂本は、
「気持ちだけもらっとく。今回のことはアイツらにもちゃんと話すし、納得すると思う」
ところでお前ら、移動何時?大丈夫か?

と逆に訊いてきた。

坂本の手には、大至急購入したらしき、見舞いの菓子や飲み物がぎゅうぎゅうに詰まった袋。

自分かてケンカ直後やのに、ずいぶん甘いやっちゃなァ。
と、川島と畑山が思っていると、坂本は少し考える顔をして、別に持っていた小さな袋を川島に渡した。

「後で葛西と食おうと思ってたんだけど…、兄貴にでも供えてやれよ」

はっとして川島が見ると、
「…マグロ饅頭??」
「そ。水族館の近くの商店で売ってんだよ。日持ちするはずだぜ」
「…兄貴には…もっと…キナ臭い話を土産にしたろ思うてたんや…」
「こっちの方がいいよ」

そこで初めて、坂本は川島に向かって笑ってみせた。


大阪戻ったら、アイツに何や面白スイーツでも送ったろ。

新幹線では、関口・吾郎が任を解かれ、フリートークが花盛り。

急いで聞いた坂本の連絡先を、しおりにしていた本を閉じ、川島は本格的に仲間達との会話に加わることにした。


ーーー食ってまえ、青雲ーーー



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