TREASURE

□寄り添う波に似て
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吹きぬける 風に手をあてて
すぎゆく 日々を想い




寄り添う波に似て




規則正しく側に寄り添う波にひとつ微笑みを向けて乾いた砂を踏む。
まだ冷たい風に金をなびかせて、雲間から落ちる一筋の光に青い宝石が歪む。
ヤマトは若草色の長いマフラーをはずし、自分の特等席へと腰をおろした。
するとそれを見計らったかのように、上のコンクリートの橋から茶色の声が降りかかった。

「おーい、ヤマトォー」

誰だかはわかりきっているのでヤマトは顔をあげず、手だけひらひらとふる。
それを合図に笑顔を浮かべて走りよる太一は、面接を終えた所なのかスーツの前をだらしなく開けていた。

「家に帰るまでが面接だぞ」
「どんな格言だっつーの。ま、落ちる心配はねーだろ」
「どんだけ自信あるんだか」

ふっと微笑んでヤマトは太一の短くなった茶の髪に手を伸ばす。
学生時代、まるで太一自身を表しているかのように自由奔放に伸びていた髪は、社会人への一歩を踏み出すために小さくこじんまりとしてしまった。
そのためか、筋肉が綺麗についた体とスマートな顔つきが余計に目立ち、彼を大人っぽくみせていた。
しかし、中身にまだまだ子供のように幼いところがあることはヤマトだけが知っていた。
スーツだというのにヤマトの隣の砂に腰を下ろした太一は、同じように雲間をみつめる。
一陣の風が二人の間をかけぬける。
三月の風が、まるでこれからを告げているかのように冷たく二人を取り囲む。

「あと、一年だな」
「ああ…」

はかったわけでもないのに同じ大学になったヤマトと太一の学生生活はあと一年も残っていない。
就職活動を始めた太一と、学生時代から誘われていたプロダクションへと足をすすめるヤマト。
今までのように、自由な生活などはけしてできない。
負うべき責任も、苦労も、痛みも今までの倍以上かかる。
それでも、これから始まる生活に胸をたかならせていた。

「いいトコみつかった?」
「てかいままで通りでよくね?」
「怪奇現象マンション?」

あははと笑う太一にそれには頭をかかえていたヤマトがうーんとうなる。
しかし、家賃の安さに比べて降りかかるもののリスクが低いので節約生活を送る気満々のヤマトは今のマンションから出ようとしない。
人がひとり増えようと、今までだって暇があれば居座っていたようなものだから同じようなものだと考えているのだ。

「それよりさ、親父になんていうんだよ」
「あー…どーしよ…」

小さい頃からの癖で太一は短髪になってしまった髪をばりばりとかく。
眉を寄せて口のなかでぶつぶつと悩んでいる太一をみて、声を出してヤマトは笑う。







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