完全妄想小説
□不完全のまま
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「随分、遅かったじゃないかい。」
「悪い。ちょっとね。」
彼女は校門までずっと私を待っていてくれたようだった。
もう暗いのに。彼女は待っていてくれた。
「本当にごめん。」
「さっき、若王子も出てきたけど・・・。アンタ、もしかして一緒にいたのかい?」
竜子は勘が鋭い。
あの時もそうだった。彼女だけが私の気持ちに気づいていた。
「何話してたんだか知らないけど、あいつは信用できないよ。」
彼女はため息をつく。
何故か先生のことを嫌っている。
嫌ってるというのは大げさかもしれないけど、彼女が言ってるように、本当に信用していない。
竜子は中学からの知り合いである。
私が悪ぶってる時期に出会って、ぎりぎりのところで助けてくれた。
彼女と2人で暗い道のりを歩く。
彼女もまた、あかりとは違った強さを持つ。
私の中で輝く存在だ。
「アンタ・・・まだアイツのこと忘れてないのかい?」
アイツとは先生ではないことくらい直ぐ分かった。
彼のことだ。
「どうして?」
「そんな顔してる。アタシには分かるよ。」
竜子は優しい。
「こないだね。会ったんだ。アイツ・・・、元気だった。幸せそうだったよ。」
筋の通らないことが嫌いな彼女も、彼のことは認めてる。
グループから抜ける時には、しっかりと落とし前つけて、喧嘩をふっかけてくる相手に対して、彼は一度も自分から手を出さずに、殴られ続けた。
「ねぇ。竜子。私は過去に囚われすぎなのかな?だから何時までもアイツのことばっかりなのかな?」
「意地になってるってのはあるかもしれないね。でも、そんなの簡単にどうにかなるもんじゃないだろ。」
簡単に忘れるなんて、本当の恋じゃない。
そう続けるみたいだった。
「竜子は好きな人いるの?」
彼女は「さぁね。」と言って、少しだけ頬を赤らめる。
きっと好きな人がいるんだ。
そう勘付く。
でも、何も聞かない。そんなの無粋だから。
皆、誰かに恋をしている。
誰かを好きにならずにはいられない。
自分にないものを求めて、それを埋めるように誰かを慕う。
それが、必ずしも成就しないと分かっていても、誰かを愛さずにはいられない。
不完全な自分。
私が求めたあの人は、違う誰かを選んだ。
私はまだ完全になることはない。