完全妄想小説

□放課後
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私は雨宮鴇。自分で言うのもなんだけど、可愛くない高校生だと思う。


私は今、化学準備室にいる。
整理された棚とは裏腹に、机は少し散らかっている。
夕日が部屋に入ってくる。
部屋は橙に染まり、窓際に座って頬付けを付いている人がいる。
その人は窓から下を見下ろし、生徒の下校を眺めているようだ。

私に気づいているのかいないのか、こちらをむいてはくれない。
一先ず彼を呼ぶ。しかし、その人はまだこちらをむいてはくれない。

私はそのまま足を進めて、彼が座る窓際まで行く。そして再び彼を呼ぶ。


「先生。」


彼はハッとしたように私の顔を見上げる。
すこしバツの悪そうな顔をして。


「雨宮さん・・・。どうしたの?先生、びっくりしちゃいました。」


そして直ぐに平静を保つ。

柔らかな笑顔を私に向ける。



私はクラス全員分のプリントを彼に渡す。
彼はすぐに受け取る。私はその隙に彼が眺めていた光景を確認した。

可愛くない私は、すぐに勘付いた。



「先生。私見たんです。」
「何をだい?」


私は答えない。

彼は何も知らないという顔をする。


「先生はあかりのこと気になってるんでしょう?」

「もちろん。だって彼女は僕の生徒です。君のことだって気になっちゃいます。」


妥当な回答だった。

でも、先生。私は知ってるんです。
5月に先生とあかりが、不注意でだけどキスしたこと。
先生がいつもあかりを見ていること。



夕日がどんどん傾いていく。


私は先生をじっと見つめる。


先生も私を見つめる。



「顔色が優れないです。もう遅いし帰りましょう。先生ももう帰るところです。」

そう言って、彼は机の上を整理して鞄に詰める。
最後に窓の施錠をする。



「雨宮さん、行きましょう。」



柔らかな笑顔。
その下には何があるんだろう。




「先生・・・。私、好きな人がいたんです。」
「恋愛・・・相談ですか?先生に勤まるかな。」



突飛な私の言葉にも、柔らかな笑顔。



「先生があと1年早く、この学校に来てくれてたら少しは違ったのかもしれない。」

「それは・・・。」

「でも、先生がいても駄目だったかもしれないけど・・・。」


とんでもない不良だった。学校も家も、彼を見放して、夜遊びして喧嘩して、どうしようもない人だった。

そんな彼は今では大学生で、荒んでいた彼はもういない。

私は彼を変えるどころか、彼の居場所にさえなれなかった。




先生は、訳の分からない私の話を黙って聞いてくれている。


「私の好きな人は、一人の女性によって変わりました。最初は悔しかったけど、あかりと出会ってからよく分かったんです。彼女みたいな存在だから、きっと人は惹かれて素直になれるんだろうって。私じゃあ、到底無理なことだったんです。」


そんなことない。

そんな言葉を彼が口にする前に、私は。



「だから、先生もあかりのことが気になるんでしょう?」



「雨宮さん・・・。君は・・・。」



「私じゃあ駄目だったんです。先生。私じゃあ。」




先生の目はどんどん暗くなる。

どんどん寂しくなる。


夕日も遂になくなって、室内は薄暗い状態になる。




「君はまだ・・・、その人のことが好きなんだね。」




涙が出る。





「先生も、あかりが好きなんでしょう?」





涙が流れ落ちる。





あかりは佐伯が好きだから。


先生もそのことを知っているから。






先生が見ていたのは、佐伯とあかりが仲良く下校する姿だったから。

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