種・種運命
□雨、心により晴れ
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「雨か…」
仕事も終わり家に帰ろうと外に出たアスランは帰るに帰れない事実に気づいた。朝は晴れていたはずの空には雨雲が広がり雨を降らせているせいだ。
「まいったな…傘なんて持ってきてないぞ」
今日は雨なんて予報じゃ言ってなかったのに、と軽く舌打ちしながら空を見上げる。
頭の中にある選択肢は2つ。
このまま雨が止むまで待つか、雨に降られて帰るかだ。
「…ま、濡れてもいいか」
アスランの中で「濡れて帰る」という選択肢が選ばれたその時。
「アスラン!」
聞きなれたそれは愛しい人の声。
「キラ」
走って来たのか顔を赤くさせ、迷子が母親を見つけたかのように顔を綻ばせてやってくるキラの姿に思わず自分の顔も緩くなる。
「アスラン、朝傘持っていってなかったなって思って。間に合ってよかったー」
そう言うと自分が差しているのとは別に持ってきた傘を差し出す。
「…アスラン?」
すぐに受け取るかと思われた傘は、未だキラの手の中にある。何の行動にも出ないアスランを不思議に思ったキラがアスランの顔を覗き込むとそこでやっと動き出してくれた。けれど。
「どうせなら、こっちに入れて?」
アスランが提案してきたのは、キラと2人で相合傘をしよう、ということ。
「濡れちゃうよ」
「いいんだ」
「2つあるのに」
「いいんだ」
「せっかく持ってきたのに」
「ダメ?」
「…いいよ」
自分のどんな顔にキラが弱いのかなんて知っている。その証拠に、そっぽ向いたキラの横顔は走ってもないのに赤くなっていた。
(帰ったら、抱きしめてもいいかな)
そんなことを思いながら、2人で1つの傘に入り帰路についた。