オリジナル

□陛下と愉快な下僕達 〜出会い〜
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そう、確かあれは2年前の4月中旬――。







「っ、ふわぁあぁ……」

朝か、時刻は7時くらいだろう。

この屋敷には私一人しかいないので、必然的に自分で起きることになる。気がついたら、どんなに夜遅く寝ようと必ず朝の7時には起きるようになっていた。

無駄に広い廊下を通り、キッチンへと向かう。確か冷蔵庫には卵とベーコンとレタスと…。よし、朝食はサンドイッチにするか。

適当に作った朝食を適当に食べ、食器等を片付けて書斎に向かう。

ただ一人で過ごす空虚な人生の中で、唯一の楽しみは本だった。

まだ小さな頃、外は一体どうなっているのだろうと思い、屋敷を脱け出した事がある。
どこまで走っても走っても、本で読んだ『人里』には辿り着けず、結局は泣きながら帰ってきたんだっけ。その時は家政婦がいたから、随分と心配をかけたようで後でこってりと絞られた。

もう誰もいない今となっては、それは切ない程に幸せな記憶。それを無理矢理封じ込めるようにして、私は書斎の扉を開いた。

「……っと、どれにするかな…」

この屋敷の蔵書量は莫大で、まだ未読のものが山とある。

今日はその中から数冊を取り、書斎から庭へ向かう。さっき窓を見たらとても良い天気だったので、たまには外で読んでみようと思ったのだ。

今思えば、この何気無い気まぐれをしていなければその先ずっと、私は孤独のまま過ごしていたのだろう。







だだっ広い庭の中でも一番大きく美しい樹の下に、折り畳み式のテーブルと椅子を置き、ティーポットやら何やらの準備をする。

全ての準備を終わらせて、思い至った。もしかして、いやもしかしなくても、庭に出た方が手間がかかるのではないか?
……もうやってしまったんだし、仕方ないか…。結局、今日は続行して、次からは新しい使用人でも来ない限り二度とやらないことにした。

台所から持ち出してきたクッキーの缶から、数枚取り出して皿に乗せる。丁度紅茶がいい感じになったので、カップに注いで一口飲んだ。

……ん、美味い。

行儀作法などガン無視してぐびぐびと飲み干し、庭を見渡す。何の変哲もない普通の庭だ(広さと豪華さだけは規格外だが)。

すると、本来ここにあってはならない『音』が聞こえた。

ころんと、まるで誰かが寝返りを打ったような、微かな音が。

…誰かいるのか!?

もしかして強盗だろうか、いや流石に強盗なら庭で寝たりしないだろう。かといって、ここは一般人がそう簡単に辿り着けるような場所じゃない。ドキドキと柄にもなく緊張しながら草を掻き分け、音がした場所に向かうと。

「……すぅ…ヒロのわ…かまみつ…」

「んにゅ…はるぅ……」

「ゆう、けるな……けるなぁあ…」

よくわからない寝言を言いながらすやすやと眠る、3人の子供を見つけた。

……あ、3人目の子が2人目に蹴られた…。




続きます。
皆して寝言がろくでもないですね。
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