エゴ
□最後の言葉
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「なぁ、野分」
それは
「ずっと言いたかった事があるんだ」
まるで夕飯のメニューでも聞くかのように自然に
「別れよう」
発せられた。
『最後の言葉』
「…え……?」
ちょっと待ってくださいヒロさん。今、何て言いました?『別れよう』って…。今日、エイプリルフールじゃないですよね?
「済まない、もう無理なんだよ」
「無理…って、俺のこと、嫌いになったんですか?」
「いや、そういう訳じゃない。ただ、お前を恋人として見れなくなった」
それだけだ、と彼は表情を変えずに言う。それは、俺にとって死刑宣告にも等しかった。
どうして、別れるなんて言ったのか。俺、何かしたのかな?
「済まない。もう、荷物まとめてあるんだ」
それってつまり、この家を出ていくってことですか?嫌だ、そんなの俺は認めない。
自室へ向かおうとした彼の腕を掴み、思い切り壁へと押しつける。痛そうに顔をしかめられたが、そんなの知るか。
「どうしてです?ちゃんと説明してくれないと、納得できません」
先程までの動揺はどこへやら、今は怖いくらいに落ち着いていた。
「だから言ったろ……お前を恋人として見れなくなったんだよ」
ばつの悪そうに目を背けて答える貴方。駄目ですよ、それじゃ答えになってません。
「どうして?」
「は……?」
「どうして、俺を恋人として見れなくなったんですか?」
思った以上に低い声が出て驚いたが、目の前の彼は驚きを通り越してもはや怯えていた。びくりと肩を震わせて、壁に縫い付けられた拳を握る。
「……ごめんなさい、怖がらせたいわけじゃないんです」
腕を掴む手を離し、代わりに緩く抱き締める。彼の体は小刻みに震えていて、より一層申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ただ、教えてほしいだけなんです。どうして俺じゃ駄目なのか」
ただ一方的に棄てられるんじゃなく、ちゃんと納得して別れたいから。
「お願いです……」
俺を、もう捨てないで。
いつの間にか背中へと回されていた腕に、僅かだが力がこもる。
「…分からないんだ」
ぽつぽつと、彼は語り始めた。
続きます。