オリジナル

□Bad∞Endはお嫌いですか?
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深い、深い深い深い森。なんかもう深すぎて最早樹海と化している薄暗い森の奥を、たった一人で進む村娘。その手には色褪せた手紙が一通握られていた。時刻はもう遅いというのに、一体どうしたのだろうか。娘は暫し歩き続け…。ぼんやりと明かりの灯る、無駄にでかい屋敷へとたどり着く。

【Bad∞Endは】【お嫌いですか?】

おどおどきょろきょろ、とてつもなく不安そうに辺りを見回しながら扉へと近づく娘。馬鹿でかい門をくぐり、庭を通過し。思わず呟いたのは「不気味」の一言。背筋を伝う恐怖に耐えながら、漸く見えてきた大きな扉へ走り寄る。所々亀裂の入った壊れた扉、それでもこのまま森をさ迷うよりはマシ、一か八かとそれを叩いた。

「…誰か居ませんか……?」

答は無い。つまり、ここには誰もいない?と娘はその場に崩れ落ちる。疲れた。もうここでもいいから寝てしまおうか。半ば自棄になりその場で寝転ぶ、冷たいタイルがじわじわと体冷やしていくがそんなの知ったことか。長時間森をさ迷ったことで疲弊しきった体はどんどん言うことを聞かなくなり、瞼がゆっくりと落ちていく。半分以上失われた視界に、突然扉が開くのが見えた。

え、人いたの?驚きと安心、そして何より地べたに寝転がっているまさにその瞬間を見られたという事実が眠気を吹き飛ばす。顔に熱が集まるのを感じながら、横たわった体を残像が見える程の速さで起こした。くす、と頭上で空気が震え、ああ笑われた地面で寝るんじゃなかったと逃げ出してしまいたくなる。しかしやっと見つけた人間、しかも雨風凌げる屋敷つきという誘惑が彼女をその場に引き止めた。カツ、とこちらへ一歩近づく靴が見える。恐る恐る顔を上げるとそこには悪戯に微笑む黒衣の青年。

「――このような夜に来客とは珍しい」

もう一度くすりと笑った彼は、そっと娘を助け起こし呆然と立ち尽くす彼女に問うた。

「お困りですか?」

ぎぃい、重い音を立てて扉が開かれる。瞬間、今まで暗かったであろう室内が一気に明るく照らされた。何のからくりだろうこれと娘は考えるが、優しく引かれる手が思考を遮る。そのままエスコートされたどり着いたのは洒落た大広間。そのあまりの広さに固まる娘の手を引いたまま、ぱたぱたと廊下から出てきた影を見て青年が嬉しそうな声を出した。

「悠!柚!お客様だ、挨拶しなさい」

走ってきたのは小学校低学年くらいの背丈をした二人の子供。片方は男の子で、もう片方は女の子だ。二人は元気よく返事をした後、くすくすと娘に話し掛けた。

「「ヨウコソ!不思議の館へ!」」

「こら…不思議の館とか言うな、お客様困ってるだろ」

いえいえそんな事ないですよと笑う娘だが、「ゴメンナサーイ」と全然反省してない様子で謝る二人の《あること》に気づく。辛うじて見える、肘や膝が人形のように部品で出来ているのだ。

「……え、」

義手?義足?それにしては動きが滑らかすぎる。まるで、それが本物の手足だと言わんばかりの動きっぷりだ。えっと、その、と上手く疑問を口に出来ない娘の代わりに、本人達が説明してくれた。

「ご察しノ通リ」「うちらは人形!」「ここにイル愁と、」「もう一人、愁の妹の春が作ってクレタ!」「俺は春に、」「うちは愁に作ってもらったんダ!」

「丁度倉庫の方にまだ使える部品があったもので、僕と春で一体ずつ作ったんです。完成したのも同じ日ですから、双子と言ってもいいかもしれませんね」

「ま、まさかここまでそっくりなのを作るとはお互い思ってなかったけどね。流石は兄妹ってやつ?」

ひょっこりと横から現れたのは、愁とよく似たメイド服の少女。今更気づいたのだが、愁の着ている服は上等な仕立ての執事服だ。…似合いすぎて普段着かと思ってた……。黒を基調とした愁に対し、春は白が多い。「昔は私も黒かったんだけどね」と春が笑った。

「悠達が白がいいって騒ぐから」

「だっテ」「見分けつかナイんだもん」

「明らかに形が違うだろう」

苦笑いする愁と春。双子はぷぅっと頬を膨らませ互いの親へと抱きつく。

「愁と春、よく似てル」「うちらジャ見分け、つかない」「ダカラ色で分けたんだ」「愁ハ黒、春は白」「似合ってるでショ?」

にへー、自慢気に笑う柚を愁が抱き上げた。それを羨ましそうに悠が見る。仕方ないなぁと悠を抱き上げる愁とその腕の中できゃっきゃ笑う二人の髪をそっと梳く春。端から見ればまるで親子のようだ。そんなことを考えてニヤついているのがバレたのか、愁の首に腕を絡ませた柚が睨んできた。

「…愁はあげないヨ」

「大丈夫。欲しいとも思ってないから」

「それはそれデ愁に失礼!」

びしぃっ、と指をさした柚。しかし、直後「やめんか」と春に軽くだが叩かれた。

「痛イ!痛イよ春!」

「お客様に失礼でしょうが」

「申し訳ありません」

うーん…。なんか、本当に親子みたいだなぁこの人達。


続きます。
 

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