フリゲ・ネトゲ

□ココロ奪われた二人の少女
1ページ/1ページ

外の世界に興味があった
でもそれ以上に友達が欲しかった


「イヴ、あっちに行ってみよう」


手を引いて見慣れたはずの場所を駆ける
イヴがいるだけでそこはまったく別の世界みたいでワクワクした


「イヴ、ねぇイヴ」


名前を呼んだだけでドキドキして
応えが返ってきてまた嬉しくなる
だから

「あっちに行きましょう」


イヴと一緒にいたオトナの声がかんに障る
こいつがイヴの手を独り占めにするから
イヴの視線を独占するから
しつこいくらいイヴの名前を呼ぶから
だから


「邪魔だなぁ」


って思う
殺したくなる
薔薇を奪って引きちぎろうと考えた
でもイヴがあまりにも悲しそうな顔をするからできなかった
私は消えるしかなかった


「ギャリーばっかりずるい」


私だけの部屋に閉じこもる
クレヨンで描いたあいつの顔をぐりぐりと塗り潰してぼやく


「ギャリーばっかり…」


ぐりぐり
ぐりぐり


「優しいイヴに付け込んで」


ぐりぐり
ぐりぐり


「イヴが拒否できないの知っていて…」


ぐりぐり
ぐりぐり


「…ずるい」


ぐりぐり
ぐり…


「どうせ私はニンゲンじゃないもん」


パタンと横向に寝転ぶ
腕を枕の代わりにして空いた指で紙をいじる
私が描いたイヴと私
そして顔を塗り潰したギャリー

分かっていた
憧れには手を伸ばすべきじゃなかった
下から眺めるのだから綺麗でキラキラしているのだ
触れようとすればそれは私を焼き払おうとする


「分かってるもん」


私が外の世界へ行くことが難しいことくらい


「…外に行ける方法なんて…知らなきゃよかった」


知らなければ期待なんかしない
希望を持ったりなんかしない
期待がなければ裏切られることもなかったし
希望がなければ絶望することもなかった


「…イヴ」


イヴと一緒にいた時間が楽しすぎた
楽しすぎたから苦しい


「イヴ…」
「メアリー」


声がして起き上がる
信じられない光景
目の前にイヴがいた
優しい笑顔で


「ギャリーは?」
「帰った」
「な…!」


あっさりととんでもないことを言う
帰ったということは外に出たことで間違いないはず


「なんでイヴがここにいるの」


イヴはギャリーと外に出るはず
ギャリーはともかくイヴは外に出るべきだ
なのに


「メアリーと一緒がいい」
「なんで…」


涙が出てくる
嬉しいはずなのに
私は幸せになるはずなのに


「なんで…なんでなんでなんで…」


イヴが私を抱き締める
温かい
私にはない体温というもの


「イヴ」
頭がぐちゃぐちゃでなにも分からない
ただイヴの名前を呼ぶ
確かめるように


「イヴ、イヴイヴイヴ…!」


すがりつくように私より小さな体を抱き締める


「ごめんね」


怖い思いをさせて
ギャリーに意地悪して
ここに閉じ込めて


「ありがとう」


今できる精一杯の笑顔を浮かべる


「…うん」


赤い瞳が和らいだ


* * *


「こんな絵画、あったかしら?」


一人の男がある絵画の前で立ち止まった
二人の少女が手をとりあって眠る絵画
そこに懐かしさを覚えたのだ


「題名は…」


『ココロ奪われた二人の少女』


美術品は少女に
少女は美術品に

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ