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□星に願いを
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「雪男、ほらみろよ!星がいっぱいだ!」

「そうだね兄さん。ほら危ないから上ばっかり見てないで」

「わーってるよ!」

そんな他愛もない会話をしながら兄さんと僕は今に氷点下になろうかという気温の中で空を見上げていた。今日は僕の仕事が珍しく早く終わったものだから、たまにはと思って兄さんに一緒に星でもみないかと誘ってみたのだが、予想以上に喜ばれてしまった。

「はしゃいじゃって。まったく、兄さんはただ星見るだけなのになんでそんなに嬉しそうなの?」

「ん、なもんなんだっていいだろ…」

「何その意味深な言い方。ますます気になるよ。」

「う…」

「ほら早く言ってごらん?」

「そりゃ………お前が……からだよ」

「ん?何?ごめん、聞こえなかった」

「……ッ、もう言わねえ!」

「えー気になるなぁ」

なんて口先では言っているが、実は聞こえていたりする。

僕と一緒だから、か…

(僕なんかと星みてなにがそんなに嬉しいんだろ。)

兄さんが「お前が一緒だから」なんていってくれたのは嬉しかったけど、心の中でそうひねくれる可愛くない自分がいる。そんなふうに自分の心に自然とブレーキがかかるのは兄さんに対する思いやりからくるものなのか、それともただの僕の臆病心にすぎないのか、なんて僕には到底判断がつかなかった。
否、もしかすると両方なのかもしれない。

「…きお!雪男!なにボーッとしてんだよ!早く早く!」

兄さんに呼ばれて、はっとする。

「ごめん、ちょっと考え事してて。今いく!」

兄さんが喜んでくれている今の状況を取りこぼしたくはないからこれ以上考えるのは止めようか。

しばらく2人でならんで上を見ながら歩いていると兄さんがいきなり口を開いて僕に話しかけてきた。

「な、雪男」

「うん?」

「星…綺麗だな」

「そうだね。これだけ綺麗だと憎たらしいよ」

「俺もこのくらい…この星くらい綺麗だったらさ、…お前にもっと好きになってもらえるかな」

…何をいってるんだ?
第一に浮かんだのはそんな思いだ。
僕は今でもこんなに好きだっていうのに、これ以上好きになってしまったら僕が、貴方が壊れてしまうだろう?

「何言ってるの兄さん、僕は今でもすごく好きだよ、兄さんのこと。」

「もっと、もっとなんだよ…俺は我儘だからさ、もっとお前が欲しい。たまに怖くなるんだ、お前がいなくなったらって考えると。」

「馬鹿だなぁ、この僕が兄さんをおいてどこへいくっていうの?」

「どこか遠い、俺がとどかないとこ。そうだな…ちょうどこの星くらい、とどかないとこ。」

隣でそう呟く兄さんが空に向かって手を伸ばす。
いきなりそんなことを言うものだから、僕はなんだか兄さんのほうこそ竹取物語のお姫様みたいに僕の側から居なくなってしまうんじゃないかって思ってしまった。
もう僕は兄さんをここに繋ぎ止めるように兄さんの手を握ることしかできない。

「……雪男?」

兄さんが優しい声色で不思議そうに僕の名を呼ぶ。すると同時に切なさが増して、僕の口から露骨な不安が溢れた。

「兄さん……どこにもいかないで…僕を置いていかないで…」

「なんでこの俺がお前をおいてどっかいかなきゃいけねーよ?…って、お前さっき似たようなこと俺に言っただろーが。」

そういや言ったっけな、
僕自身がこんなんなのに、よくあんなでしゃばったことを言えたものだ。

「結局さ、雪男」

「?」

「似てんだよ俺ら。確かに見かけは似てねーけどさ。お前の方が頭いいし、お前の方がモテるし、お前の方が頼りがいがあるしな」

「…何が言いたいのさ」

「…っだから!!!俺はお前のことがめちゃくちゃ好き、お前だって俺がめちゃくちゃ好き!………そうだろ?」


…あぁそうか。

僕は兄さんの論理性とはかけ離れた証明を妙に納得させられて少し笑みを溢す。

でもね兄さん。

「ごめん、僕は兄さんのことすきじゃない」

「え…っ」

思った通りの反応。
そんな兄に愛しさを感じながら、耳元でこう囁いてやった。



「愛してる、だよ」


兄さんは半泣きだったけれど、僕のその一言を聞いた瞬間くしゃっと笑い、キスをせがむ。




「俺もあいしてる、雪男。」







──僕らには「好き」より「愛してる」のほうがあってるだろ?






end.





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