小話
□拍手お礼4
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「ねぇ総ちゃん、本当にいいの?」
「はい」
「本当の本当に?」
「はい」
「…うーん。でもやっぱり…」
そう言って眉間に皺を寄せてまた悩み始めたミツ姉に、俺は小さくため息を吐いた。
さっきからこれの繰り返しだ。
…こんなもの、俺には必要ないのに。
「あっ、此所にいらしたんですね。永倉です。ご無沙汰してます。ミツさ…」
「あら、新八さん。お久しぶりです。お元気ですか?」
「あっ…はい、お陰さまで…。てか…あの、その、おっ、沖田さん…ですよね?」
「……」
そう永倉が声を震わせながら見ている視線の先には、不機嫌そうに綺麗な花の模様が描かれている着物を着ている俺の姿。
驚くのも当然だ。俺は普段絶対にこんな着物は着ない。
…ただ、何かムカつく。
「…何ジロジロ見てんだ永倉。叩き斬るぞ」
「はっ、はいィィィ!すみませんっ!!」
俺が眼光を鋭くさせて一睨みすれば、永倉は慌てて姿勢を正し縮こまった。
「こら、総ちゃん駄目でしょ。そんなこと言っちゃ」
「…すいやせん」
…まぁ、あの白髪に見られるよりはマシか。
「…あ、あの…お聞きしてもいいですか?何故、こんなに綺麗な着物がたくさん…。これは、全部沖田さんの物ですか?」
「永倉しつこい」
「はいっ!すみません!!」
「いいじゃない総ちゃん。あのね、これは元々私の着物なんだけれど…どれも最近着ていないものや小さくなったものばかりなの。それで、ご近所の娘さんに譲ろうと思ったのだけれど…サイズが合わないといけないでしょう?だから、体型も年齢も総ちゃんなら近いと思って、今合わせてもらっているの」
「あぁ、なるほど…」
「でも、仕事上は着ることはなくても、やっぱり総ちゃんにも必要だと思うの。全部似合っているし…。でも総ちゃんは要らないって…」
「当たり前。こんなの宝の持ち腐れでさァ」
「えー…でも、似合ってますし…」
「……」
「…すみません」
何でミツ姉にしても、永倉にしても、俺に女の着物を着せたがるのか。
毎日のように人を斬って血にまみれている俺に。
「女」なんてものを意識していては、この真選組ではやっていけない。
そんなことは、とうの昔に言われたし、思い知った。
「おー、こんなとこにいたのか」
「あっ、副長」
「トシさん!」
「げっ…」
最悪だ。
「おぅ永倉、原田がお前探してたぞ」
「あっはい。分かりました」
永倉が部屋から出ていくと同時に、土方が部屋に入ってくる。
何時もと変わらない跳ね放題の銀髪頭。
そして周りに置かれた着物を一瞥した後、ミツ姉を見た。
「よォ、どうだ体調の方は」
「えぇ。お陰さまで。最近は近所の子達と遊ぶのが楽しみなんです」
「…ったく、あんま無理すんじゃねーぞ」
そう言った土方の表情は、いつもの隊志達に向ける険しいものではなく、柔らかい。
ミツ姉の前では、コイツは“真選組鬼の副長"ではなくなる。
ミツ姉も、いつもの大人びた雰囲気よりも、恋をするただの年頃の女性。といった表情になる。
そう、この二人は相思相愛なのだ。
それは、ここ(真選組)では有名な話。
ただ二人は大人だから、仕事にこういった私情は持ち出さない。特に土方は絶対にだ。
だからその分、こうして会える時間は貴重。
…邪魔者は消えるとしますか。
「ミツ姉、もういいだろィ。さっさと脱いで稽古にでも…」
「あら待って総ちゃん。まだトシさんにちゃんと見てもらってないわ」
「は?」
そう言うやいなや、ミツ姉は俺の体をぐるりと回して土方の方に向けた。
「どう?トシさん。可愛いでしょう。私、これが一番総ちゃんに似合ってると思うの。一枚ぐらい、こういうの置いておいてもいいわよね?」
土方が少し目を細めて俺を見た。
相変わらずその紅い目から何を考えているのかを読み取ることはできない。
ミツ姉もミツ姉だ。
土方に聞いたところで、バカにされて終わるに決まっている。
コイツは俺に女を求めてはいない。
「あぁ…確かに、似合ってんじゃねーか」
―え?
「ですよね!やっぱりトシさんもそう思いますか」
「はぁっ!?」
口に出された予想外すぎる言葉に、俺は思わず奇声を発した。
「ひ…土方テメェそれどういう意味だ!」
「あぁ?そのまんまの意味だ。可愛い、似合ってる。んなことも理解できねーのかテメーは」
「かわっ…!?」
可愛い?
俺が?
何を言ってんだコイツは。
「今日はどーすんだ?ここに泊まっていくか?」
「え?いいんですか?」
動揺する俺を置いて、二人はそんな会話をしている。
『真選組、一番隊隊長として此所に身を置くからには、女は捨てろ。女だ男だ、そんなこたァ戦の中じゃ通用しねェ。性別を変えろと言ってるワケじゃねぇ。ただ、女伊達だと仲間にも敵にもナメられちまう。これはテメェ自身のための忠告だ』
真選組結成初期の頃、そう俺に言ったのは土方だ。
それが今のは何だ。
コイツは女物の着物を着た俺を可愛いと言った。
やっぱり何考えてんのか分からねェ。
ムカつく野郎だ。
でも、
「オイ総司、今日はミツが此所に泊まるからお前の部屋で寝かせてやれ」
…こうして自分の恋人としてではなく、俺の姉として気を配ってくれているところや、ガラに合っていない着物姿をお世辞でも似合うと言ってくれたコイツに、少なからず嬉しさを感じている自分が、一番…
「ムカつく…」
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