二万打御礼小説
□それは必要不可欠な
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「姉上。水、替えにきました」
「あら、ありがとう。神楽ちゃん、冷凍庫から氷出してくれるかしら?」
「了解アル!」
洗い物をしていた手を一度止め、妙は新八から受け取った桶の水を捨てて新しく入れた。
「銀さんの様子はどう?」
隣で手拭いを絞る新八にそう問えば、彼は少し苦笑して言った。
「出血の方はもう止まっていると思うんですけど、まだ熱が高くて…。起きたら一度水分補給をした方がいいでしょうね」
「そうね…。今回のことだって、まだ何があったかも聞いていないし…。あ、神楽ちゃん、氷はこの桶に入れてくれる?」
「桂さんと何かあったみたいなんですが…。あんな怪我するまで何していたんでしょうね。まったく…」
本当にね。
そう溜め息混じりにふっと微笑んで蛇口を捻って水を止めた。
ぴちょん、ぴちょんと滲み出た水が水滴を作っては落ちた。
「…姉上にそんな顔させるバカ天パには、起きたら説教が必要です」
「新ちゃん…」
そう言って新八は桶と手拭いを持って銀時の眠る寝室へと向かっていった。
「…神楽ちゃん、私って今、どんな顔してる?」
そう問うてみれば、パチリとした青い瞳が此方へ向けられた。
それから少し考える素振りをすると、口を開いた。
「悲しそうな…顔してるアル…。銀ちゃんは馬鹿ネ。自分が誰よりも姉御のことを必要としてるのに、その姉御にこんな顔させてるアル。私は、姉御と銀ちゃんが笑ってる顔を見るのが好きヨ。銀ちゃんが苦しんでる顔も、姉御が悲しんでる顔も、できれば見たくないネ…」
その瞳を揺らせて、唇を震わせて言うその姿に妙は、変なこと聞いてごめんねと謝った。
すぐに「いいアルヨ」と笑顔で返事が返ってきた。
私が銀さんに必要とされている…?
誰よりも?
そんなこと、一度も言ってくれなかったじゃないの。気持ちはね、言葉や行動で表してくれなきゃなかなか伝わらないのよ?
特に女はね。
貴方は私を頼らないじゃない。
言ってくれれば、いつでも力になるのに。
分からない。
分からないわ…銀さん…。
そう小さく拳に力を込めたところで、寝室から大きな音が聞こえた。
それに驚きながら、一度神楽と顔を見合わせると急いで寝室へと向かった。
「新ちゃん!何かあったの?」
寝室に着くと、すぐに妙は部屋の中を見た。
するとまず目に飛び込んできたのは、困惑の表情を浮かべて布団の前に立っている新八の姿だった。
「あ、姉上!その…銀、さんが…」
「銀ちゃんに何かあったアルか!?」
その言葉にいち早く反応した神楽が部屋に足を踏み入れた瞬間、
「来るなっ!!!!」
思わず息を止めてしまうほどの威圧感を含んだ声が響いた。
それに一瞬動きを止めるも、神楽が今度はゆっくりと部屋へ入り、妙もその後に続いた。
それから声がした部屋の奥へと視線を移した。
その目にまず飛び込んできたのは、銀色。
そして次に鋭く光る紅。
続いて空色の着物。
「こっちに来るな!!そこから一歩でも動けば殺す!!」
紅い瞳を鋭く光らせ、ぶかぶかの着物を引き摺りながら部屋の壁に背を預けて此方を睨む銀髪の少年。
酷く見覚えのあるその容姿に、妙も神楽も困惑の表情を浮かべた。
「新ちゃん…これは一体…」
「ぼ、僕にも分かりません。ここに戻ってきたらこの子が…銀さんがいて…」
妙はもう一度その少年を見た。
はだけた着物の間からは怪我をした彼に手当てをした包帯が見え隠れしており、この少年が銀時であることを悟る。
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