二万打御礼小説

□2.あたたかいココア
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「妙ー、いるかー?」

「はーい。あら銀さん。どうしたんですか?」

お昼時を過ぎた頃、志村邸にふらりとやってきた銀時は玄関に座ると恋人である妙を呼んだ。
普段はこの時間に彼が来ることはあまりない。それに少し疑問を感じながら妙は銀時に尋ねた。

「暇だったから」

銀時は一言そう答えた。
何か特別な理由でもあるのかと思っていた妙は面食らった。

「…それだけ、ですか?」

思わず聞き返してしまう。

「あー…あと、妙に会いたかったから。まぁそれが一番の理由かな。このくそ寒い中、銀さん頑張って妙に会いにきたワケよ」

そう言った銀時に、妙は内心嬉しく思う。
だが、まだ聞きたいことはあった。

「新ちゃんと神楽ちゃんはどうしたんですか?」

「新八は親衛隊の活動があるとかで出掛けたし、神楽は定春と散歩に行った」

「そうなんですか…で、お仕事はどうしたんですか?」

銀時がビクリと肩を揺らす。妙はにっこりと綺麗な笑顔を浮かべた。だがその目は一ミリたりとも笑っていない。
それに銀時はダラダラと冷や汗を流した。

「いや、その…今日は寒いし依頼も来ないかなー…って…」

「あら、お仕事に寒いも暑いもクソもないじゃありませんか。いい加減に新ちゃんにお給料「あー!寒ィ寒ィ!お邪魔しまーす!!」

妙の言葉を遮り、銀時はブーツを脱いでわざとらしく言いながら家の中へと上がった。
「あー、ホンット寒ィなぁー!」などと大声を上げて居間へと向かう銀時に、妙はため息をつくと脱ぎ捨てられたブーツを揃えてその後に続いた。

居間に入るなり、銀時は出してある炬燵に足を入れて座った。

「おねーさん。何か甘いものをください。甘けりゃ何でもいいからさ」

巻いていたマフラーをはずしながら銀時が言った。

「ダメです。新ちゃんから聞いてるんですよ?銀さん、この前もお医者様に甘いものはいい加減に控えなさいって言われたんでしょう?」

「あーもういいんだよ。俺ァ太く短く生きるって決めてるから」

「ダメです。新ちゃんに今までの分のお給料を払うまで死ぬことは許しません」

「え?そこ?」

ピシャリと言い放った妙に、銀時はガクリと項垂れる。そのままブツブツと何かを呟きながらいじけ始める銀時に妙は本日二回目のため息をついた。

「…じゃあ、私何か甘いものを持ってきますから、ちょっと待っていてくださいね」

そう言えば、銀時はパッと顔を上げて目を輝かせた。どうやら復活したようだ。結局彼は甘いものが食べられるなら何でもいいらしい。


妙は台所へと向かうと戸棚を開けた。お茶の葉が入ったビンの横にあったそれを取り出し、スプーンでマグカップの中に入れてお湯を注いだ。それを盆にのせ、銀時が待つ居間へと向かった。

「はい。持ってきましたよ」

そう言って炬燵の上に二つのマグカップを並べた。
その中からはほわほわと温かい湯気がのぼっていた。

「…なんだ?こりゃ…」

中を覗き込んだ銀時が眉を寄せる。

「ココアです。インスタントですけどね。パックには、“ほんのりした甘さ"と書いてありましたよ」

甘いものでしょう?とにこやかに言って銀時の前に座った妙に、銀時は頬をひきつらせた。
やられた感が拭えない銀時だが、せっかく妙がいれてくれたのだからと一口飲んでみる。

「どうですか?このココア、意外とおいしい…って、銀さん?」

突然銀時は立ち上がると、何も言わずに居間を出た。あまりにも急な行動に、妙は頭に疑問符を浮かべる。

「何か変なものでも入っていたのかしら…」

そう思ってマグカップの中を覗き込んでみるが、特にゴミが浮いているわけでもない。
妙が首を傾げていると、銀時が居間に戻ってきた。だが、その手にはなぜか砂糖が。

「…銀さん?まさかそれを入れるんですか?せっかく甘さが控えめのものを持ってきたのに…。もういい大人なんですから我慢してください!」

「いいじゃねーか。そりゃあもう妙がいれてくれたってだけでこのココアは銀さんの気持ち的には甘甘だよ?だけどやっぱ味覚に直接くる甘さってのが欲しくてよ」

そんなことを言いながら妙の隣に腰を下ろす銀時。妙は銀時の言葉の前半部分に頬を染めて口を噤んだ。だがその間に銀時は砂糖をココアに入れていた。
妙が止めるが時既に遅し。銀時はココアを飲んでいた。

「あー、うめー。やっぱ甘いものがないとダメだわ俺」

「もう、本当に糖尿になってもしりませんからね…。それに一体どのくらい入れたんですか?砂糖が半分になっているんですけど」

先程まで小瓶に満帆に入っていた砂糖が半分に減っていた。かなりの砂糖を入れた銀時のココアは、湯気事態から甘い匂いが漂っていた。

「んー?うめぇぞ。飲んでみるか?」

銀時がマグカップを差し出す。
だが妙は漂ってくる甘い香りに眉を寄せてそっぽを向いた。

「結構です。そんなものを飲んだら、私まで糖尿に…「お妙」

急に名前を呼ばれ、妙は反射的に振り向く。
だがその瞬間、唇に温かい感触。

「…ふっ、ん…ぎ、銀さ…んっ!…」

次第に深くなっていくそれに、妙は固く目を瞑るともう限界だと銀時の胸板を叩いた。
少しのリップ音と共に、ゆっくりと唇が離される。目を開ければ、悪戯っぽい笑みを浮かべる銀時がいた。

「どうだ?うまかっただろ?」

上気する顔の熱を感じながら、妙は呼吸を整える。
先程のお返しだとでも言うように、銀時はニヤリと口角を上げた。

「っ…//」

妙の返答を待つように見つめてくる銀時に妙は口元を片手で隠すと顔を逸らした。

「…やっぱり、甘すぎます…」







甘い…ですよね…?
ココア=キス みたいな方程式が浮かぶ私の頭…。

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