RKRN御題部屋入口

□俺、お前のこと嫌いじゃねぇぜ
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朝日が照らすいつもの通学路、を使っていたら今日は間に合わない、と伊作と留三郎は近道である薄暗い路地を疾走していた。

「遅刻しちゃうよー!」

「お前があそこで滑って転んで用水路なんかに落ちなければ、こんな時間にはならんかったわ!」

「仕方ないじゃないか!あんな所に空き缶があるとは誰も思わないし、まさかその先に用水路があるとは…」

「だああっ!!もういい!喋ってる時間も惜しい!」

伊作は黒い学生鞄を、留三郎は有名なスポーツバッグを脇に抱え、懸命に足を動かした。
何度目かの角を曲がると、数十メートル先に光が差している。
そこを抜ければ学校は目の前だ。

「留さん、間に合いそ、うわっ!」

伊作が安堵したのも束の間、すぐ前を走っていた留三郎が突然立ち止まったのだ。
危うく激突しそうになるが、何とか回避した伊作は、留三郎に抗議の声を上げる。

「ちょっと!どうしたのさ、いきなり止まったりして」

「静かに!」

留三郎は声を潜め、伊作を制止すると、壁に身を寄せた。
状況が飲み込めない伊作だが、留三郎に倣う。
壁に沿い進んでいくと、やがて何人かの話し声が聞こえてきた。
それは、派生する細い路地の奥から聞こえるようだ。

「…だから、さっさ財布と出せってば」

「…っ」

「俺ら金ないからさー。恵まれない子供達に寄附を、みたいな?」

その会話から、伊作にもすぐに分かり、留三郎に囁きかけた。

「留さん、これって…」

「おう、カツアゲだ。まだこういうのってやってる奴いるんだな」

そう言った声は冷静そのものだったが、留三郎の瞳は怒りに燃えていた。
それを見た伊作は軽くため息をつき、

(…まあ、仕方ないよね)

と、心中で呟いた。

(正義感の塊みたいな留さんが見過ごすわけないもん。いいか、遅刻の一回や二回)

「おらおら!弱い者虐めしてんじゃねーぞ、この不良どもがぁ!」

数人の不良達と気弱そうな学生の間に怒鳴り込む留三郎に、伊作も、微力ながら協力を、と着いて行った。





「…で、不良達を蹴散らしいい線までいったが、伊作の投げた缶が留三郎の頭に直撃しすっ転んで、何故か伊作も一緒にすっ転んでごみ箱に突っ込み、その隙に不良達は逃げ去り、ついでにカツアゲされてた学生もどっかに逃げてて、学校には遅刻するわ、理由を証明する人はいないせいで学年指導の先生には怒られるわ、体操着で過ごす羽目になるわで大変だった、と」

「まさしくその通りだよ。丁寧な解説をありがとう、文次郎」

委員会の仕事のために伊作と留三郎のクラス立ち寄った文次郎は、体操着を着た浮いた二人を見付け、声を掛けた。
そして、それまでのいきさつを聞き、今は笑いを堪えている。

「笑わないでよ。こっちは散々だったんだから」

「…っ、ああ、すまんすまん…、くく…」

笑いが零れる口許を隠す文次郎だが、目が笑っている。伊作は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

「にしても、二人まとめてごみ箱に突っ込むとか…」

「うっせぇな!」

伊作に変わって留三郎が反発する。いつもの如く文次郎に対して牙を向く留三郎だが、文次郎はそれさえも笑いのスパイス程度にしか捉えない。

「はは、怖ぇなあ。そう凄まねぇでくれよ、体操着で」

「何だとっ!」

馬鹿にされている事に腹を立てた留三郎が文次郎に掴み掛かろうとして席を立った。

「でもよぉ」

だが、文次郎の言葉に留三郎の手が止まる。

「最後はともかく、人助けしようとしたのは恰好いいじゃねぇか」

「なっ…」

「向こう見ずなところは馬鹿としか言いようがないが…。俺、お前のそういうところは嫌いじゃないぜ」

文次郎は歯を見せて笑った。眉間に皺が寄っているが、それが彼の笑い方なのだ。
それは、文次郎が厭味などではなく、純粋に笑っているのだという事を示していた。

「な、なっ…!」

文次郎の笑顔を横目に見ながら、

(あらら、珍しい。文次郎が笑うなんて。これって、結構脈ありなんじゃないの?)

と、伊作は口笛でも吹きたい気分になった。留三郎はどうしているだろうか、と視線を移すと、口を金魚のようにぱくぱくと開閉させていた。
そんな留三郎の口を突いてようやく出た言葉は、

「べ…別に、お前からどう思われたってどうでもいいっつーの!」
という下らない悪態だった。

(あーあ…)

伊作は落胆を隠せず、大きなため息をついた。
そこからは、いつも通りの売り言葉に買い言葉だ。

「人がせっかく褒めてんのに、何だよその言い草は!」

「どこが褒めてんだ!馬鹿とか言ってんじゃねぇか!」

「馬鹿は馬鹿だろ!」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ、バーカ!」

真面目に聞いているのも馬鹿らしくなった伊作は、退屈しのぎに窓の外へと目を遣った。

(これから暑くなるなぁ)

梅雨明けの清々しい青空が広がっている。

(それまでに片付いてくれないかなあ、この二人)

すぐそこまで迫る夏の足音を聞くように、目を閉じた。






















―――――――――――――――

第三弾
やや伊作君視点が基本になってる



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