RKRN御題部屋入口

□一口くらい、いいだろ
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四時限目の授業が終わると、教室は途端に賑やかになる。
弁当を片手に友人の席へ向かう者、食堂や購買へと走っていく者と、それらの行き先は様々である。
そのうちの伊作と留三郎は、通常通り、廊下に面した窓際の留三郎の席で食事を共にする事になった。
伊作は周辺の適当な椅子に腰を降ろすと、自分の弁当の包みを開きながら留三郎の昼食を見た。

「あ、今日はコンビニ飯なんだ」

「ああ。今朝は時間がなくってな」

全国で見られる有名なコンビニのナイロン袋をがさがさと鳴らして、留三郎は中身を取り出した。
その内容は、パンが二つと、おにぎりが三つだ。
飲み物は自分で用意したようで、使い古した水筒を鞄から取り出し、それらを机の上に並べた。
その中で、留三郎が最初に手に取ったのは、新商品と記されたシールが袋に貼られた菓子パンだった。

「留さんが甘い物をご飯に買うなんて珍しいね」

「まあな。でも、新発売とか期間限定とか書かれると気になるんだよ」

開封すると、そこからふわりと甘い苺の匂いが広がった。
留三郎はそのパンを適当な箇所から食べ始めた。伊作も自分の弁当に手を付け、それぞれの食事が始まった。

「どうだった?そのパン、美味しい?」

「うーん、まあまあかな」

食べながらそうした言葉を交わしていた二人だが、そこに予期せぬ来訪者が現れた。

「お、いいもん食ってるじゃねぇか」

「も、文次郎!」

窓から顔を出したのは、A組の文次郎だった。
驚きのあまりむせる留三郎の背を摩りながら、伊作は尋ねた。

「どうしたの、その荷物。お昼まで委員会の仕事?」

「ああ。もうすぐ予算会議があるからな」

文次郎の手には書類や帳簿、そして、彼が好んで使っている算盤があった。

「大変そうだね」

「そうでもないさ。あ、おい、留三郎」

ようやく落ち着いた留三郎は、文次郎の呼び掛けにびくりと一つ震えたが、それを隠すように鋭い目付きを繕った。

「何だよ。なんか用か?」

警戒心を露にし、見るからに喧嘩腰の留三郎の威嚇をかわし、文次郎は窓から上半身を乗り出した。
そして、留三郎の腕を掴むと、パンを持ったその手を自分の方へと引き寄せた。

「なっ」

「一口もらうぜ!」

そう言って文次郎は留三郎のパンにかじりついた。
言葉の通り一口だけ取ると、あっさりと留三郎の腕から手を離し、

「ん。結構イケるな、これ」

と、指の腹で口元のパン屑を払っていた。
留三郎はその所作を呆然と見ていたが、はっとすると、弾かれたように文次郎に牙を向く。

「何しやがんだ!」

「何怒ってんだよ。いいだろ、一口くらい。減るもんじゃない」

文次郎は笑うが、留三郎の文句は収まらない。

「減ったわ!お前が食った分がな!大損害だぜ!」

「はあ?けち臭い事言ってんじゃねぇよ!」

遂にその気がなかった文次郎までも眉間に険しい皺を寄せ、留三郎の喧嘩を買ってしまった。

「まさに、売り言葉に買い言葉ってやつだな」

罵り合う二人を弁当をつつきながら傍観していた伊作が呟くが、それももう聞こえていないようだ。
激化する口論を眺め、殴り合いに発展する前には止めよう、とひとりごち、伊作は卵焼きを頬張った。

「あーあ、留さんってば、あんなに顔真っ赤にしちゃって」

確かに、怒声を飛ばす留三郎の頬には朱が差している。
はたしてそれは、喧嘩の興奮からくるものなのか、それとも別の要因があるのか。

どちらにせよ、伊作にとっては結局は他人事であるため、揉める二人はそのままに、暢気に昼食を楽しんだ。





































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留三郎はすごい奥手
文次郎に悪気はない
伊作は暢気に傍観者



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