RKRN御題部屋入口

□追い掛ける
1ページ/1ページ









学園で六年という月日を同級生として共にした長次と小平太では、片割れを後から追い掛けてくるのは、決まって小平太だった。
その理由は非常に簡単なもので、長次が追わないからだ。
生来口数が少ない質だったというのもあり、特に用もない時に人に話し掛けるという事はなかった。
よって、小平太ばかりが歩みを止めない長次を見付けては追い掛けるようになったのだ。
提出する書類であったり、図書室に納める書物だったりを抱えて歩く長次に、背後から小平太が飛び付く、という図は、当時の学園ではあまりにありふれた光景であった。
しかし、主体的に関わりを持つ事こそなかった長次だが、小平太に抱き着かれたり、下らない話を聞かされたりというのも満更でもない様子だった。
つまり、長次もそれを望むところはあったという事で、釣り合いは取れていたのである。



渇いた土地に胡座をかき、小平太は古い思い出を心に描くと、

「懐かしいなあ、長次」

と、嘆息を漏らした。
客観的なものであり、純粋な記憶ではないのだが、目を閉じると、そこにはかつての自分達の後ろ姿がありありと映し出された。
身振り手振りでやかましく何かを話す小平太と、それを黙って聞いている長次がいる。
しかし、次第に彼らの影は遠ざかっていき、とうとう思い出の端に消えたところで、小平太は目を開いた。

「覚えているか?いつも私はお前の後ろに着いて回っていたな。お前もよく突き放さなかったものだ、と感心するよ」

小平太は笑うが、彼の特徴の一つであった豪快な色は陰り、些か沈んだ音色に感じられた。
それは辺り一帯の景色の色と一致しての事かもしれない。
民家もない荒野には、小平太が携えた小さな行灯の灯の外に明かりの一つもなく、どこまでも寒々しい夜が横たわっている。

「なあ、長次。これからも私はお前を追って行こうと思う」

どこか決意めいた声に、長次の返答はなく、小平太も長次に語りかけながらも反応を必要としていないようで、一人で言葉を続けた。

「別に私を待っていたりはしなくていいからな。お前はお前の道を進んでいてくれよ」

それを境と、小平太は勢いよく立ち上がった。
照らされている狭い範囲にもうもうと砂埃が舞う。
小平太は行灯と小さな荷物を抱えた。話すだけ話して気が済んだのか、直に引き上げるつもりのようだ。

「先に行っててくれ。きっと、追い付く。走って行くからな」

そう言って見下ろした先は、先程の小平太が話し掛けていた辺りだ。
そこには、行灯の微かな光のゆらめきを映す忍び刀が地面に突き刺さっていた。
刀の柄は古びているが、辛うじて、長、という文字が彫り込まれているのを判別出来る。
それは、まるで墓標のようだった。
だが、火も小平太の手によって潰されると、いよいよ闇が訪れ、何物の輪郭も融和してしまった。
光を失った暗闇は、ひゅうひゅうと渡る風の音をよく通した。
それを裂くように、小平太の声が響く。

「長次、次に生まれた時は共に生きような」

それっきり声は途絶え、足音も立てずに小平太の気配はどこかへと消えていった。








―――――――――――――――

こへは泣かないと思う



.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ