RKRN御題部屋入口

□お生憎様。これが私の生様
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「動物だってより良い所を求めて、住み処を変えていくじゃない。それと同じだよ」

城壁もなく、荒廃した城は、内部も壁や敷居があったりなかったりと無残な様だったが、皮肉にもそのおかげで組頭の声はどこまでも響いた。
応える者は、吹きすさぶ淀んだ風と、俺の視線だけだ。

「ここも悪くはなかったけど…。もっと魅力的な所があれば、そっちに行くのは当然だろう。それに、悪くはないと言っても、飽きてしまったからね」

かつて我らが主の物だった南蛮渡来の玉座は、この荒れ果てた景色で唯一過去のきらびやかな姿を現存する物で、組頭の身体を凝った装飾の施された四つ脚でしっかりと支えている。
己の主人を殺した男を、それはそれは自慢げに掲げている。

「というのが、私の意見なんだけども、お前は私を非難するかい?」

彼の問い掛けに、俺は首を振った。

「いいえ。所詮は金で結ばれた主従関係。裏切りなどありふれていますから」

俺の答えに満足して頂けた様子で、組頭はにんまりと片目を細めた。
緩慢な動作で椅子から腰を上げると、猫のように大きな伸びを一つした。

「そうか、そうか。それは良かった。ならば、私に着いて来なさい。私の新しい主を紹介しよう。きっとお前の事も良い値で雇ってくれるさ」

差し延べられる手を拒むつもりは毛頭なかったのだが、その誘いに乗る前に、俺は一つ聞いておきたい事があった。

「何故、俺だけを謀叛の前に遠方の仕事に向かわせたのですか?」

数カ月前、突然の任務を言い遣った俺がようやく帰って来たのは今日で、既に城はなく、かつての殿の部屋に組頭だけが以前と変わらない様子で、俺を待ち構えていたのだ。
おそらく、他の忍仲間は死に絶えたのだろう。
組頭はおやおやと大袈裟な反応を示し、次にはやはり芝居がかった大きなため息をついた。

「やだなぁ、最近の若い奴は。こんなおじさんに言わせるなんてね…。決まってるじゃない。私が君を愛しているからだよ」

「愛しているとおっしゃるのなら何故、私に計画をお話しにならなかったので?」

「そんなの、危ないからに決まってるだろう」

馬鹿にしているのはどちらだろう。
しかし、組頭はそれ以上議論するつもりはないようだ。

「そろそろ行こうか。お前も長らく無意味な任務のために骨を折っただろうからね。埋め合わせをしてやりたいんだよ」

自分の後に着いてくるように促す組頭の背中に、俺は素直に続いた。

「前置きですが、俺は別に私利私欲のために己が主人、そして部下を欺いたあなたを非難したり軽蔑するつもりはありません」

「そうか。それで?」

振り返らないまま問い掛ける組頭に、俺は平然と言った。

「最低ですね」

そこで足を止め、組頭は俺に顔を向けたが、その表情は怒りを表すものではなかった。

「知ってるさ。お生憎様だ」

それは、誰かが言った冗談を笑う時のように、不自然のない笑顔だった。

「これが私の生き様なんでね」

そう言って、足元に転がる半ば白骨化した首のない死体を踏み付けて、組頭は道なき荒野を進んでいった。

























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雑渡第七弾
補足→首のない死体→首を取られた殿様の死体



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