RKRN御題部屋入口

□殺気と憎悪しかない森の中
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「おい、尊奈門」

夕暮れ時と言えど、深い森の中では辺りの明度は既に夜のそれだ。だが、その暗い影こそが、任務の最中である俺達の強い味方である。
重ねて述べるが、任務中であるので、草陰に潜む俺は、その声を無視する。

「おいってば」

後ろから袖を引かれていて尚、上司の呼び掛けを無視し通せる奴がいるだろうか。
俺には出来ず、渋々振り向く外なかった。
思ったよりも近くにあった顔に驚きながらも、俺は組頭に言った。

「何でしょうか、組頭。たいしたご用でないのなら、どうかお静かにお願いします」

組頭は俺の希望を聞き入れてくれるつもりはないらしく、俺の袖から離した手をひらひらと振って見せた。

「冷たいじゃないか。たいしたご用があるから呼んでいたんだよ」

自然と出て来る溜め息を止めるのも億劫でそのままにするが、組頭は気にする様子もなく、相変わらず俺の傍に居座ったままだ。

「何なんですか、その用ってのは。仕事中なんですから、早くして下さい」

組頭は否定したが、実際はやはり重要性の低い用件なのだろうと判断した俺は、任務に差し支えては困るので、早く片付けてしまおうと思った。
それを述べるように促すと、組頭は包帯に覆われた顔を綻ばせた。

「ありがとう。じゃあ、出来るだけ早く済ませるから」

そう言われるのと同時に、どういう訳か、俺は組頭に押し倒されていた。
その行動を理解する前に、俺の袴の紐を解き始めた組頭の手に仰天した。

「ちょっ…!何するんですか!?」

とりあえず暴れてはみるが、組頭に俺が敵う筈もなく、あっという間に身動きを封じられてしまう。

「何って、聞かなきゃ分からないか?野暮だね、お前は」

口も動くが、手も速く、組頭は俺の袴を難無く脱がせてしまった。
動く事は出来ないが、情けないのだが、唯一自由な口で必死に喚く。

「よ、用があるって言ったじゃないですかっ!」

「うん、だからこれがそうだよ。どうにも溜まっちゃってねぇ。ああ、竿だけ貸してくれればすぐ済むから」

「いえ、そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて?」

ようやく停止する手に安心するが、それも束の間の事で、俺は辺りを見回した。
姿はないが、確かに感じる仲間の気配。

「え、何?人がいる事を気にしてるのか?」

俺は首を振った。
忍組頭がこれ程鈍感でいいのかと不安になるが、森に充満する気配を思うと、それで忍が勤まるのか、と更に不安になる。
否、訂正しよう。
恐ろしい。

「組頭は感じないんですか、この殺気…」

膨れ上がった暗闇が、俺に向かって、殺す殺す、と呪いのように連呼しているようにさえ感じてしまう、この殺気と憎悪を。

「…別に。何も感じないけど」

その空気にも気付かずに首を傾げる鈍感な組頭なのだ、自分が原因である事に気付く事など有り得ない話だ。
それについてはすっかり諦めた俺の足を、組頭の指が意味深になぞり、俺ははっとした。
俺の身体にのしかかっている組頭を見遣ると、組頭と目が合った。

「とにかく、再開しようか」

それは、今の俺にとっては死刑宣告に等しい。

「ちょっ、やめ…っ!せめて、この仕事が終わってから…」

「待たないし、待てない」

殺気どころか、いつ手裏剣や小刀が飛んで来てもおかしくない。
敵わないと知っていても藻掻いていると、俺を見下ろす組頭が、それはもう愉快そうに目を細めている事に気が付いた。

「私がお前の何なのか、見せつけてやろうとか考えないの?」

それを見て確信した。

「やっぱり知ってたんじゃないですか!」

「ま、後で頑張んなさい。死なないようにね」

見ての通り、俺が歪んだ性格の持ち主である上司に襲われているのだが、夜の闇よりもどす黒い殺気は消えてはくれなかった。






























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雑渡第五弾
不憫な男、尊奈門



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