RKRN御題部屋入口

□へばり付いた血を拭った指
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※モブ、というか、ほぼオリキャラ注意










私が初めて殺した人間は、私の上司であった。
自らの血の海で息も絶え絶えに藻掻く上司、その先に散らばった巻物、その内容を写していた紙をそれぞれ一瞥し、再び上司へと視線を戻した。

「何故、このような事を…。満足な給料も貰っていたでしょう。地位も高い。何より、忍としての腕は並ぶ者がいない。それなのに、何故敵方に通じていたのですか」

私の問い掛けを聞き取る事が出来たらしく、吐き出した血でぬらぬらと光る唇がにやりと緩い孤を画いた。

「何故、だと…?は、は、相も変わらず無粋な奴よの」

枯れた笑い声が行灯が薄暗く照らす部屋に飽和する。

「金は確かな物か。地位は不動か。この手がもげて落ちれば、私は戦わずして負けるだろう」

「…ですが、何故」

「はは、は。俺は、な。よく知ったのだ。この世に不変はないのだ、と。それに気付いて、どうしていつまでもこの城が安全だと思おうか。なあ、お前。一つでは足りんだらう。もっと、私をたくさん繋ぎ留めるもの、を」

上司の息は荒く、不規則になり、いよいよ終いなのだと端からでもよく分かった。
それは、本人が最も承知しているところのためか、彼は一息に語った。

「諸行無常、万物流転。では、私は何だ。私は、大きな流れの、中の何なの、だ」

上司の口、それから、痙攣していた身体は静かになり、やがて、騒々しかった呼吸も停止した。
息絶えたそれは、かつては上司と呼んだものだったが、今では自立しない肉塊へと変貌を遂げてしまったのだ。
私は死体の処理と、殿への報告をしなければならない。
とりあえず、報告が先だと、私は散乱する巻物を拾い上げようと身を屈めた。
その時、床を濡らす色濃い水溜まりに、私の顔が映っていた。
赤黒い血に映った私の頬に、黒い染みが付着している事に気付いた。
返り血を派手に浴びてしまったらしい。
私はそれを手の甲で拭い取るながら、変わり果てた上司だった物を見遣った。
彼なら、本気で殺しに掛かる私をかわす事も、返り討ちにする事も造作なかっただろうに。
確証こそないが、彼は殺される日を待っていたのかもしれない、と、私は何とは無しに思った。
彼の末期の言葉が甦る。

『諸行無常、万物流転。では、私は何だ。私は、大きな流れの、中の何なの、だ』

知れた事を。
我らは、何でも無い、のだ。
基、忍とは本来そうあるべきだという事を、彼は忘れてしまっていたのだろうか。
大きな流れに浮く塵でさえもなく、それを形成するものであるか、その流れそのものか。
彼は本来ある筈のない、自分個人という確固たる存在を探し、食い止める杭を求め、哀れにも狂ったのだ。
あれが忍の辿る末路なのかもしれない、と思うと、次期組頭の候補と持ち上げられている私としては、何とも言い難いものだ。
こびり付いた血はなかなか落ちるものではなく、私の頬に痕跡を残している。
いつか彼の様になる日には、出来る事なら前途ある部下に尻拭いはさせたくないものだ、と呟きながら、巻物を抱えた私は部屋を後にした。



























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雑渡第四弾
モブが多い



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