RKRN御題部屋入口
□悪いね。これも仕事だから
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「ぃ、あっ、あぁ…っ!」
私を布団の上で組み敷き、私の中に挿入している男が前後に動く度、私は男の声で女みたいに喘ぐ。
男はそんな私の反応を楽しんでいるようで、いっそう押し込む力が増した。
「ひぁ、あっ!ぅあ、ゃ、やめ…!」
「何を言っている…。昆奈門、お前はこうされるのが好きなくせに、なっ!」
そう言うや否や、男は上体を起こし、私の下半身を抱え上げた。
繋がったままの杭がより深くを抉り、私はあられもない姿を晒して甲高い声で啼く他ない。
「あ、んあぁっ!こぇ、いや…!あ、あっ…、奥、くる、ぅ…っ!」
そのままがつがつと揺さ振られ、溢れ出す涙が散る。
太い男根が弱い箇所を遠慮なく擦り上げていき、気が狂いそうな程の快感が私の身を焦がす。
天を仰いでいる私のものも限界を訴えていた。
「っ、ぁ、あ…!も、だめ…っ、ん、ぅ…っ!」
息も絶え絶えに告げると、男は随分余裕のない声で、
「ああ…、達ってもいいぜ」
と、透明な先走りを零すそれを扱き始めた。
「ゃ、あんっ!ぃ、いく…っ、も…っ!ぁ、あ、ひ、ああぁんっ!」
直接的な刺激に喉をのけ反らせて泣き叫んだ。
間もなく私の自身は呆気なく弾け、私の腹の上を白濁で汚した。
力が抜けた身体だが、私が達していても尚止められない律動に、男を咥え込んでいるそこが収縮する。
その動きが男を締め付けてしまったらしく、男は、う、と息を詰め、半分程しか入っていなかったそれを一気に最奥へと突き入れた。
「ふ、ぁ…、や、ぁ…ぁん…」
「は、ぁ…中、出すぞ…っ!」
男のものがわななき、どくり、と熱を放った。
「ん、んん…っ、は、ぅん…っ!」
量が多く、しばらくの間男の濃く粘ついた精液はびゅるびゅると出続け、私は痙攣する身体でそれを受け止る。
射精が終わると、最後の一滴まで私に注ぎ込もうと男は何度か腰を揺らし、ようやく雄を引き抜いた。
塞ぐ栓を失った後孔から、先程のもの、そして今までに散々与えられた精液がとぷりと零れた。
その些細な刺激にさえ身体をびくつかせる私に、男は満足そうに笑うと、私の隣にその身を横たえた。
されるがままに男に抱き寄せられ、逞しい腕の中で息を整えながら男の顔を見ると、にやにやと嫌らしい笑みで口許を緩ませている。
「…何?」
「昆奈門、気持ち良かったか?」
「ふん…。変態」
顔を逸らすが、男の指が私の顎を捕らえ、無理矢理向き直らせた。
「つれねぇなぁ、あんなに感じてたくせによぉ。変態はどっちだ?」
「五月蝿いね…。本当にお前の気が知れないよ。こんな男の身体に勃つなんてさ」
火傷の痕でぐちゃぐちゃだし、当然ながら、女のように柔らかい訳でも、可愛らしい訳でもないのに。
私がそう言うと、男は私の額に口付けを落とし、ぎゅう、と抱きしめた。
「そういうのじゃねぇ、っていつも言ってるだろ。俺はあんたが好きなんだよ。あんたじゃねぇと勃たねぇんだっつの」
「…ホント、いい趣味だこと」
大きな溜息をつきながらも、私からも男の背に手を回し、抱き返してやると、男は嬉しそうに笑った。
未だに子供らしいあどけなさが見え、私は微笑んだ。
互いに唇を重ね、睦言なんかを囁いていると、風が窓をがたがたと揺らした。
(……あ)
その音の中に、私は聞き慣れたあの音を聞いた。
風に紛れ、微かな音だが、たとえどんなに小さかろうと私はそれを聞き違う事はない。
「…ねぇ」
「ん?何だ、昆奈門?」
男の厚い胸に手を置き、その瞳を見詰めて私は尋ねた。
「こんな私を愛しているかい?」
その問い掛けに、男は優しげな笑顔を浮かべ、
「もちろん。愛しているよ」
と、言ってくれた。
それを見て、私は同性でありながらも、男前な奴だと思った。
「そうか…、ありがとう。だったら…」
「うん?」
「私のために死んでおくれ」
そう言った時には、男の胸には布団の下に隠しておいた私の忍び刀が刺さっていた。
「え…」
彼は何が起こったか分からないらしく、間抜けな顔をしている。
私が刀を引き抜くと、そこから勢いよく鮮血が溢れ出し、男のみならず、布団や私まで真っ赤に染めていった。
顔に巻かれている包帯も赤黒くなる。後で巻き直さないといけないと思うと面倒だ。
「よ、っと」
身体を起こそうとすると、腰の辺りに鈍痛が走るが気にしないようにする。
立ち上がった私の足を何かが触り、下を見てみると、最早虫の息の男が私の足を青白い手で掴んでいる。
血を吐きながら、男の口が僅かに動いた。
「何?」
声が小さいので聞き取り辛く、屈み込み、耳を近付けると、ひゅーひゅーと風の音によく似た呼吸音がする。
「おま、え…、どうして…」
死に瀕した男は双眸に絶望の色を湛えていた。
その純粋な目を私は素直に美しいと感じた。
私は男の頭を撫でてやりながら、優しく言った。
「どうして、か…。うん、そうだね。今の今まで抱き合っていた恋人に刺されたんだものね。そう思って当然だ」
「…っ、…!」
「あ、痛い?うん、でもねぇ…」
そして、広がっていく血溜まりの中から私を見上げる男に微笑みかけた。
「悪いね。これも仕事なんだ」
今の私の顔は、きっと恐ろしく歪んだ笑顔なのだろう。
「あ、でもね。こんな醜い私を愛してくれたのは嬉しかったよ?これは本当」
付け足しのように言いながら返事のない男を見ると、私があれ程美しいと感じた瞳は、いつの間にか、汚く濁った死んだ魚のようなただの眼球に成り下がっていた。
男は事切れている。
「組頭、お疲れ様でした」
声のした方向へ顔だけを向けると、どこからか現れた私の優秀な部下、諸泉尊奈門がいた。
「よくあの状況で矢羽音を聞き取る事が出来ましたね」
「ま、ね。で、君は私を迎えに来てくれたのかい?」
「ええ、そうですけど。…とりあえず、服を着て下さい」
全くいちいち五月蝿い奴だ、という意を込めて溜息をつくと、じろりと睨まれたので、私は肩を竦めて畳の上に脱ぎ散らかしていた衣類を掻き集める。
反抗期とでもいうのだろうか、最近はこましゃくれていて、可愛いげがない。
私が着物の袖に腕を通していると、その様子を監視していた尊奈門が口を開いた。
「三ヶ月もの間、同棲し、情を交わした男を殺したというのに、泣きもしないんですね」
尊奈門を見遣ると、私を蔑むような眼差しで問うているのかとも考えたが、ただ興味を持っているだけのようだ。
私は一つ唸り、
「まあ、女ではないからね」
と、答えた。
「でも、女役でしたよね」
「うるさいね」
口の減らない部下を冷たく一瞥し、この話は終わりだと言いながら私は立ち上がった。
随分久しく纏っていなかった忍装束だが、男が買い与えてくれた小綺麗な着物よりも私の身体によく馴染んだ。包帯に飛散した血が乾き始めているようで、不愉快な手触りがするが、それも装飾の一つと思おう。
やはり私の歩む道はこの道なのだと改めて実感した。
「さて、行こうか」
「ええ」
扉を引けば風が強く、表に植えられた古い柳木の細い枝が恨めしげに振り乱れている。
暗がりに踏み出すと、私の後に続く懲りない尊奈門が私に尋ねた。
「もう一ついいですか?」
「何?」
私が聞き返すと、尊奈門の声が風に紛れ込みながら私に届く。
「あの男の名は何と言ったのですか」
しばらくの間考え込むが、最後は首を傾げつつ答えた。
「さあ、忘れてしまったよ」
もう終わった仕事だからね。
雲とも見られない暗雲が夜空を多い、星影も届かない。
私達の生きる世界は死の果てまでこの景色が続くのだ。
愛や恋なんて、夢のように儚いものに心を奪われる訳がない。
私は唯一私の命を確かに語る男の息の根を止めた短刀を懐に忍ばせ、灯もない大地を駆けた。
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雑渡さん第一弾
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