―光―

□―3章―
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―今、私はローマ市内の観光地、象徴である
コロッセオの目の前に立っていた

早朝は景色が霞んでいた

威厳を感じさせるようなその大きな円形の闘技場は
立ち尽くしている


早朝のローマの町には、人も何も見当たらなかった



でも、この建物の中から不思議な気配を感じた…。

昨夜、私の部屋から見た満月に近い月明かりが
ここを射していた気がして、

私を誘うみたいだった



気のせいかもしれないけども


シチリアからローマなんて遠くて見えないはずなのに、
ここに何かがあると確信したの



昨夜の月は、私に何を伝えたかったんだろう

私は、決心するように手を強く握り締め
コロッセオに向かい歩き出した。




円形の建物に入ってすぐに
霞の向こう、円の中心に人影が立っているのを見た

容姿まではハッキリ見えない

そこで、もう少しゆっくり足を進めた



「誰?」

「―!?」



低く唸るような声が私に突き刺さり、立ち止まった

その時、フワッ―と柔らかい風が霞を吹き飛ばした




「…何してるの、君。」



声の主、それは
プラチナブロンドの髪の月のように丸い頭だった


いや、そういうことを言いたかったんじゃない。



あれが、アラウディ様。


秘密諜報部、門外顧問のトップ

しかし、こんなところに彼は何をしていたのだろう?



「私は、アグライアと申します

プリーモ様から、友人に一度顔を合わせてほしいと
言われ、あなたに会いに来ました」



「ふぅん…君の噂は聞いてたよ

で、何故僕の居場所が君に分かったのか、気になるな」




気になると言う彼は私を一目見てから
全くこっちを向かないで話している




「いえ、特に何もありませんが…」

「が?何?」

「…ただ偶然、足を運んだだけです」



しつこさに憤りを感じながらも平然を装って言葉を並べた



「…貴方はこちらで何をしてらしたんですか?」


「別に、僕もただ来ただけだよ」


「そうですか。」



変な方…。

ジョット様の友人は変わった方ばかりだ


私が対等に話すには何年も早いのかと思った



「っ!!アラウディ様!」


「!!?」



一瞬の殺気、空を貫く音が私たちを襲った

先に気付いたのが幸運だった

私は彼の肩を押し、間一髪
その攻撃を避けることができた



「何者!?」



彼を背にして、身を構えて辺りを注意深く見渡す



「アラウディ様、怪我はありませんか!?」

「…大丈夫だよ」

「ご無事で何よりですが
気をつけてください、まだ敵がいます」




すると―

続々と足音を立てて大量のマフィアの人間が、
コロッセオの中心の二人をぐるりと囲んだ




「けけけ…っ
諜報部のお偉いさんが
こんなところにいるとは」

「この人数なら…楽勝だな」








こいつらの狙いは彼の首か…。

彼も身構えて戦闘する気だけど


この数はとてもじゃないけど…無理よ。




「ねぇ」


「は、はいっ!?」


「どうするの?僕が勝手に全員倒すよ?」


「そんな無茶な…!
無理は禁物です、それにターゲットが動いていたら
狙われやすいですから…」


「じゃあ、これ全員君がやるの…?」



君も無理でしょ?と言わんばかりの言い回しに、
言葉を詰まらせた

でも、『やるしかない』と思えば答えはすぐ出た





「……何とかします!」




私は目を閉じて
ゆっくり、息を吐いた

集中力を魔力に、全力を体の中心に溜める



「っオイ!テメェら
なにこそこそ話して突っ立っんてんだよ!!

一気にやっちまえぇっΣ」


どっと、大勢のファミリーの群れが
同時に二人を襲いにむかった





私は、危険を知りながらも半神化の解禁を選んだ








―黙った彼女の背を僕も黙って見た


僕としては手っ取り早く全員張っ倒したほうがいいと思ったけれど



彼女の強さと覚悟を確かめてみたかった


どの程度の強さを秘めた者なのか…



そう考えていたら

ふと、空気が変わったような気がした



その瞬間、目の前が真っ白に光り
激しい突風が起きた

あまりの眩しさに目を強く閉じた



身体中がびりびりとする、何か不思議な力を感じる


…ゆっくり目を開けた


その時…僕は見た―


透きとおる翼の生えた光り輝く女神の姿を―…。



辺りを見回すと
僕らの周りのマフィアは一人残らず地に身を倒していた

覇気に似たような力に圧迫され、誰一人も
耐えきれなかったのだろう




「プリーモ様の友人には絶対に手を触れさせない…」



姿が変わり、表情も冷静沈着で
瞳の色も澄んで、美しかった―。


さっきとは、まるで違う


僕は、女神に心を奪われた






「…まぁ、もう全員気を失っていますけど

これで襲われる心配はないでしょう」



魔力の一時的増加させると
その魔力は容姿を変えるほど目に見えるようになる


それは、翼の生えた女神の様な姿




結構コンプレックスなのよ、
この技まだ慣れていないからなのか
下手をすれば敵味方関係なく倒れてしまうから危険なの…。


でも彼は何か違った

ジョット様の見込んだ方は皆、やはり並の魂では無いと確信していた


今でも私の背に彼は立っていた

とても不安だったけど気を失わずに良かった。




私は、薄く魔力を纏った両手をぎゅっと握り締めた



もっと、人を助ける力が欲しい―。



そう固く願い、スゥ―と
力を抜いて元の姿へと戻った





「体に異常はありませんかアラウディ様」



と、後ろを振り返って言い切るその瞬間だった



カチャ―…



ぇ?



錠をかける音、右の手首に僅かに冷たい違和感を感じた

視線をやると、その手首には手錠の片方がかけられ

さらに目を移したもう一方の手錠には

彼の左手首が繋がっていた―。




「こ、これはなんでしょうか…?」



酷く焦りきょどった言い方になっていた



次に彼の返した言葉は私の問いに対して明らかに
関係ないことだった




「初めて見たよ

信じられないくらい麗しい人間を―…」




「何をおっしゃって―っ!?」





…気づいた時には
目を瞑った彼の顔が私のすぐ目鼻先にあった


そう分かると次に

生ぬるく柔らかい感触を唇に感じた


うそ…いきなり…?


そうだ、私は彼の空いている右手で
左腕を掴まれて強引に身体ごと引き寄せられて……


この状態に至っていた。




「!!?」





ふと我に返った瞬間
私は思わず左手を振り払い彼の身体を突き放してしまった


しかし、手錠で繋がれているために
少ししか距離を置けなかった




彼はクスッと鼻で笑った



「その様子だと初めてみたいだね」


「な、何を…」




「分からなかったの?


キスしただけだけど」




平然と、彼はそう言った。



「―!!///なっ、何故そんな…」


「言ったでしょ?
『信じられないくらい麗しい人間を初めて見た』って。


君に興味を惹かれた―。

意味、わかった?」



「わ、私そんなこと言われても
素直に受けれないと言いますか


困ります…っ」



「構わないよ」


「……はい?」


「困るとか言ったところで
僕には相手の事情なんて関係ないよ

僕のやりたいようにやるだけだから」


「そ、そんな…す、すみませんっ!!」



フッ―と、私はテレポートで
手錠から逃れ、彼から1mの距離をおいたところに一度着いた



「失礼しました…!」



深々と頭を下げてから今度は姿を消した。






「フッ…僕から逃げるなんて、
諜報部の長をナメられたら困るね。」



アラウディは、そう呟いてコロッセオを後にした。

アグライアが倒した大量の人を置いて―。
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