novel
□社内旅行 C
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夜。
広間を貸し切って宴会が行われていた。
ロの字型に膳が置かれた広間で、絵梨は数名の若い男性社員とともに、お酒をついでまわったり追加注文を頼んだりと、忙しく動き回っていた。
昼間−−、
岩場をあとにし、皆の元に戻った。二人がいなかったことを気にする者はなかった。
ほどなく旅館へ引き上げ、少し休憩したあと、夕飯前に温泉に入った。
そして今、宴会が催されている。
出し物などの準備はなく、管理職が好きにカラオケをして楽しんでいた。
とりあえずお酒が十分にいきわたり、絵梨は一息つこうと座り、ふぅっと息を吐いた。そして、少し離れた斜め向かいの席を見た。
視線の先には、浴衣姿の西川係長がいた。
(私、どうかしてる…)
あれ以来、西川係長のことが頭から離れかった。
(どんな人か何も知らないのに…。しかも…家庭がある人…)
絵梨は西川係長に抱きはじめた特別な感情にとまどっていた。
なぜ目で追ってしまうのか。この気持ちは理屈では説明がつかない。
なぜだか惹かれてしまうのだ。
やるせない気持ちになり、もう一度視線を送ると、目が合ってしまった。
(!…わっ!やだ、目が合っちゃった…)
うろたえて愛想笑いを浮かべると、西川係長がすっと席を立った。
(あ、あれ…、見てるのバレて気味悪がられちゃった!?)
焦っていると、係長は、膳の周りをぐるっとまわって絵梨の隣にきた。
(隣に来た…!うれしいけど…緊張する…)
「飲んでる?」
そばにあったビール瓶を持ち上げ、絵梨に注いでくれる。
「あ、はい…それなりに」
絵梨も注ぎ返す。
「みんなの世話ばっかで全然ゆっくりできないもんな」
「いえ…そんなことは…」
緊張をほぐそうと、注がれたビールを一気飲みしてしまう。
「あれ、結構いけるね。もう一杯どうぞ」
その後、他愛のない会話をしながら、何度か注がれたお酒を飲み干していった。