その他

□Life and Heart
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シリアス気味です。








「いのちって何なんだろうね。」

テレビでは毎日のように事件や自殺が報道され、死傷者の数字をニュースキャスターが事務的に読み上げていく。
その姿に現実味なんて湧かない。
あまりにも大きな数だからか、それとも私もキャスターと同じで他人事に思っているのか。

「不思議だよね、こうやって突然未来を奪われた人達もいるってのに、自ら未来を断つ人も沢山居るんだよ。」

視線をテレビに向けたまま、私は横に並んで座っているだろう相手へ鷹揚の無い声音で言葉を紡いだ。
別に返答を求めているわけじゃない。
それは向こうも解っているのか、彼からは何も返ってこなかった。
変わりに小さく息を吸うのが聞こえた。

「ねえ知ってる?去年1年間の交通事故死者数が5744人なんだって。それ以外にも色んな理由で命を奪われた人っているんだよね。」

テレビからは視線を外さず、画面右上にLIVEと映される画面を無感情にぼんやりと見つめ続けた。
やっぱり何の実感も感情も湧いてこない。
ずっと持っていたリモコンを脇へと置き、そっと左腕に触れれば冷えていたのか触れた部分に温もりが広がる。
夜は肌寒いものの梅雨も中頃、じめじめとした空気と湿気の多さで部屋は何時も蒸し暑い。
まだエアコンも入れてないし、部屋は片隅に置いた扇風機が気持ち程度に涼しい温風を運んでくれているだけでじっとりと暑い。
その中で私は頑なに長袖を着続け、今もまた黒色の長袖へ袖を通している。

それからスッとテレビかから隣に居る彼へと視線を移した。
彼は気難しそうに眉をぐっと寄せ、そのくせ私を映す瞳は不安げに揺らめいている。
彼とは対照的に、瞳に映る私は口端を上げ何とも歪な笑みを浮かべ、自分でも嗤える位変な表情をしてる。

「そんな人達が居るのに、自殺をする人も3万2千人以上居るんだよ。」

ぎゅっと握りしめた腕には、消えない痕が幾つも残っていて、それは布越しでも解る程存在をアピールしてくる。
それを隠すように着続けた長袖。
横に座る彼は知っているけど、それでも癖となった着用を直す事は出来ず無意識のうちに長袖を選んで着ている。

「いのちは平等、いのちは大切って言うけど、本当にそうなのかな?」

望んでも生きれない人が居る。
断つ事で自分の意義を見いだす人だって居る。

「いのちって何なんだろうね?」

すとんと重心を後ろへ移すと、丁度ベットに背が当たり程良い背もたれになった。
天井を仰ぎ見れば、電球の一つが切れ最後の一つが一緒懸命に部屋を照らしてくれている。
ああ、明日買いに行かないとね。

「私にはその意味をちゃんと据えて言う事は出来ませんが……」

ポツリと、今日彼がここに訪れて初めて言葉を零した。
電灯から彼へと視線を戻すと、綺麗に彼の瞳と視線がかち合った。

「確かにいのちに平等というものは無いのかもしれません。」

ふわりと柔和な笑みを浮かべ、彼はそっと私の左腕へ触れた。
節くれ立った男の子特有の指先が触れ、その部分がさっき私が触れた以上に熱を帯びている。
それと同時に凄く安心する。

「だからこそ大切と思えるのかもしれませんね。大切な人が居なくなると思うと私は死ぬほど苦しくなります。貴女が生きて、私の側で居てくれる事が奇跡であるんですよ?そう思えばいのちというものは尊くも愛しい、大切なものなのかもしれませんね。」

何時の間にか彼の指が私の指を絡め取り、スッと持ち上げられ甲に柔らかなキスを送られた。
サラサラと鴇色の髪が揺れ、そこから覗く綺麗な瞳が私を映し、ほんのりと桜色をした唇がまるで誓いを立てるようゆっくりと音を奏でた。



貴女と一緒に居られるこの瞬間に、私は感謝と幸せでいっぱいです。



→補足など。

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