その他

□Take care.
1ページ/1ページ




「39度2分。」

完璧風邪だ。
体温計を睨んだ瞬間、ゴホゴホと変な音を響かせ咳込んだ。

「サイアク。」

目尻に涙を浮かばせ、ポツリと零せば、声は何時もより掠れている。
昨日から続く咳のせいで掠れてしまった、そう思うと昨日ちゃんと対処しなかった自分が憎らしくてならない。
今は咳込む度に、大きな鐘を鳴らす様に頭に響いて辛い。


5月並に暖かかったり、雨のせいで急激に気温が下がったり、自分は見事にこの季節特有の寒暖の差に当てられてしまった。
更に今日、どうしても外したくない用事をこなしたせいで、益々悪化している。

相変わらず自分は考えが足りない。

過ぎた事は仕方が無い。
それより今自分の気掛かりは、このままだと明日学校に行けるかが解らないという事だ。
皆勤賞を狙う者としては、そっちの方が重大で、且つ深刻な悩みだ。

今日はもう大人しく寝よう。
そう再度自分に言い聞かせ、氷嚢を取りにリビングへ向かった。





「もー無理、限界。辛い怠い気持ち悪いフラフラする…」

何で何もないの!?

リビングへと降り、フラフラする意識を律しながら探す事数分。
衝撃的事実に打ちひしがれた。
冷凍庫を漁っても氷嚢は無いし、棚を漁っても市販の熱冷ましシートも見つからない。
まだ春だから氷も作って無いし、唯一市販の薬があるだけ。
最悪な事に、今日は家族全員が手払っていて病院にも行けない。
自分で出来る事は、お薬を飲んで、水で冷やしたタオルをおでこに乗せるだけ。
そんなんじゃあまり意味が無い。


突如、軽快な音が響いた。
それはピンポーンと何とも気の抜ける音で、朦朧とする頭だとインターホンが鳴ったんだと気付くのに、少し時間がかかった。

誰だこんな辛い時に来る奴は。

何ともタイミングの悪い訪問者だ。
内心舌打ちをし、水に濡す用のタオルを握締めたままフラフラとした足取りで玄関へと向かった。










今日は一昨日の雨が嘘の様に晴れ渡り、久し振りの晴天のもと練習試合が出来た。

それだけでも嬉しいのに、幼馴染みが応援にも来てくれ終始頬が緩みっ放しだった。
彼女が大学に入って以来、お互い部活(彼女の場合はサークル)などで私達の交流は疎遠となっていた。
だからこそ、駄目もとで誘った練習試合を見に来てくれた事が嬉しくてならない。
久方振りに見る幼馴染みは、相変わらず優しい笑みを浮かべ、私がポイントを取る度に拍手を送ってくれた。

しかし垣間見せる辛そうな表情や、力無くフェンスに凭れかかる姿も何時か目にした。

まさか体調が悪いのに無理させてしまったのだろうか?

それなら悪い事をしてしまった。
帰りにお礼も兼ねて、幼馴染みに会いに行こう。

罪悪感でか胸がツキツキと痛む中、久し振りに訪れる幼馴染み宅にうっすらと頬を赤くした。





「え…ヒロちゃん?」

玄関が開くと、そこには練習試合時よりも辛そうに眉を寄せる幼馴染みがいた。
部屋着なのか、ラフな格好をした幼馴染みは少し幼く見え、何時もピシリとした隙のない彼女との違いに内心ドキリとする。

いやいやダメだ。
何を考えているんですか私は!!

「今日はありがとうございました。少し体調が悪そうでしたので、お礼がてら様子を見に来ました。」

胸の内の考えを押さえるべく、必死に笑顔を浮かべて見せた。
幼馴染みはありがとうと笑みを浮べ返してくれるが、その声は掠れている。
それからゴホゴホと咳込んだ。

「まさか風邪ですか?」
「うん、ちょっとこじらせちゃった。」

そう言われれば顔が少し赤い。
失礼と一言断ってから額・頬の順番に手を添えれば、熱が上がっていると解るほど熱かった。

「ヒロちゃんの手冷たくて気持ち良い…」

そろりと私の手の上へ、彼女の手が被さった。
その手の熱さに益々眉が寄る。
これはかなり熱があるんじゃないだろうか?
名前を呼ぼうと幼馴染みを見つめた瞬間、彼女の体が前へとよろめき、突然ガクリと崩れた。

「えっ!?わっ、っ…大丈夫ですか!!」

一緒にしゃがみ込む様にして支え、玄関へ倒れるという事態は免れた。
しかし自分で立ち上がるのも辛いのか、彼女は瞳を閉じたままで、力なく私の腕に手が乗っているだけだ。
今にも意識を失いそうな幼馴染みは、弱々しく「気持ち悪い」と零したっきり辛そうに肩で息をするだけだ。

とにかくベットに運ばなくては!!


彼女の膝裏に腕を通し、ぐったりとしたままの背を支えて抱き起こし、久方振りの幼馴染みの部屋を目指した。


後は氷嚢に、何か飲み物を用意しないといけませんね。


何が必要かを脳内にリストアップしながら、私は幼馴染みを運んだ。





BACK



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ