その他

□desire
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ふんわりと甘い香りに意識が浮上し、ゆっくりと目が覚めた。
カーテンの隙間から太陽が入り込み、あまりの眩しさにおもわず体を反転させ光に背を向けた。
もそもそと携帯を手繰り寄せ、時間を確認すれば9時。
何時もより早い覚醒だ。

「うぅっ、あと3時間……」

パタンと携帯を畳み、枕に顔を埋まらせながら誰に言うでもなくポツリと零した。
今は3月。
折角の春休みなのだから、有意義に使わずしてどうする。
特に今日なんて何の用事もないのだから、めい一杯惰眠を貪りたい。
再度布団を引っ張っろうとした所で、私のではない声が突然降ってきた。

「おはようさん。」

少し鼻にかかった掠れた声。
独特の方言と声にああ、大好きな声だとまだ起ききっていない脳が反応した。
そっと瞼を開けば、ニッと笑みを浮かべる綺麗な顔がベットのすぐ向こう、私の20cmにも満たない先に広がっていた。
サラサラと揺れる銀髪は、太陽の光を受けキラキラと宝石の様に輝き、すっと細められた切れ長の瞳は綺麗な狐色をしている。
肌なんてとても白く肌理細かで、薄っすらと桜色の唇の下にあるホクロが妙に際立っている。
あまりにも整い過ぎの顔をぼんやりと見つめていると、それはニッコリと擬音が付くような満面の笑みを浮かべ首を傾げてみせた。

「そろそろ起きんしゃい。」

その美しい人間が仁王と気付いたのはそれから数秒後。
私はカッと目を見開き、勢いよく布団から飛び起きた。

「ににににおっ、に仁王っ!!!!!」
「どもりすぎじゃ。」

パクパクと口を開閉していると、仁王は起き上がりくるりと背を向けた。
それからキッチンへ向い、勝手に棚から食器、冷蔵庫からは牛乳を取り出し始めた。

……あれ?

あまりの違和感の無さに見逃しそうになったけど、ここは私の部屋だ。
最近親と吟味して棚やテーブル、ソファなどが置いてある。
ついでに言えば一人暮らし用に借りた部屋。

なんで仁王がいるの?

キッチンで何かゴソゴソする仁王を見つめ、そこでようやく自分が昨晩彼を招きいれたのだと思い出した。
昨晩、何時ものようにバイトを終わらせ立ち寄ったスーパーの買い物袋を引っ提げ帰れば、アパート玄関口に仁王が壁にもたれて座っていた。
その時の驚きようといったら、説明しようが無い。
ご近所に迷惑だろうと叫びたかった。
その位の衝撃が走ったのだ。
仁王は紺色の立海制服で肩にスポーツバックをかけ、驚きと恐怖で固まっている私に声をかけてきた。
見た目も、声も、全てがまんま仁王雅治。
不審者と思う一方で、私の脳内ではある単語が踊り始めた。
だって仁王雅治は二次元、漫画の世界のキャラクター。
現実にいるわけが無い。

彼が仁王雅治だと解った瞬間、心の中で「逆トリ万歳!」と叫んだのは仕方がないと思う。

それから立ち話はなんなんで、と部屋へ招き入れ彼へ私が教えれる限りの情報を教えた。





「ほれ、泊めてもろたお礼じゃ。」

結果、一夜にして仁王は自分の立場を理解し、この状況をすんなりと受け入れてしまった。
どれだけ適応力とか肝が据わってんだとか、変に感心してしまう。
仁王は両手に皿を持ち、コトリとテーブルへそれらを並べた。
私はまだベットに座ったままで、仁王の仕草をぼんやりと見つめている。
テーブルに並べられたのは二人分の食事で、皿には綺麗な狐色をしたフレンチトーストが乗っかっている。
その横には牛乳の入ったコップと、小皿に盛ったサラダ。

「え、もしかしてこれ仁王が作ったの?」

キッチンからドレッシングを持ってきた仁王を見上げれば、「料理は勝手に湧いたりせんからのう。」と苦笑を浮かべられた。
それから二つ並べてあるうちの片方のクッションに腰を下ろし、私にも早くベットから出てくるよう顎で促された。

「早くせんと料理が冷める。」

仁王の呟きに苦笑を浮かべ、私もベットから下りて空いているソファへと座った。






さて、今日はこれからどうしようか。
とりあえず仁王に着替えとかを買わなきゃな。

ぼんやりとそんなことを考えながら、二人そろって「いただきます。」と手を合わせ仁王が作ってくれた朝食を美味しく頂いた。






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