main story 金盞花W

□金盞花 地獄篇 #05 【Reunion】
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「どうだ気分は。」


地獄の奥深く、洞窟のような空間に浮かぶ影は二つ。

一つは先程空座町の上空で市丸ギンと刀を合わせた咎人“朱蓮”。

そしてもう一つは土壁から出ている鎖で手首の自由を奪われ、何とも重たそうな足枷をぼんやりと見つめる女の咎人だった。




「.....気分は?と聞いている。」

「......」


朱蓮の問いに答える事も無く、彼の方を見るでもなく、ただ一点だけを見つめる彼女に以前の凛とした雰囲気は微塵も無かった。






「協力してくれる気にはなったか?」


コツコツと足音を響かせながら彼女に近付く朱蓮だが、あと少しで手が届きそうな距離で頬に痛みを感じた。

痛みを感じた場所に手を宛がえば、指先にべっとり赤が付き朱蓮は口角を上げた。




「風を使ったのか.....まさに“鎌鼬”。」


朱蓮がそこまで言うと、彼女はようやく顔を上げた。





「協力ですって?
笑わせないで、一族同士間の能力譲渡だって命がけなのに......アンタみたいな軟弱な坊ちゃんに“私”を遣いこなせる訳ないでしょう?」



ハハハ、と高らかに笑い自分と朱蓮の間に風の壁を作った彼女.....名前は“戮島帰蝶”、初代戮島家の当主で矢吹の斬パク刀の正体である。









金盞花 地獄篇 #05



【Reunion】








先程まで虚ろであった瞳も、朱蓮が「戮島」を口にした瞬間、光を放つような鋭い眼光にへと変わった。




「私は理由があって地獄に堕ちた....だから今更この不十分な力を使ってまで地獄から出ようとは思わない。与えられた刑を、ただただ受けるのみ。」



そう言って再び足枷に目を向けた。

自分で言うのも可笑しいが、随分と痩せたな....と帰蝶は思った。此処では空腹を感じることも無く、排泄をする事も無くい。

しかしながらこうして一日中鎖に繋がれていても息長らえるけれど、動かなければ筋肉も落ちる。



「それに私にはもう地獄の扉を破る程の力は残っていない。」




矢吹が己の生を市丸ギンに吹き込んだ時、帰蝶は自分の身体に残る全ての霊圧を矢吹に吹き込んだ。


それによって彼女の生はそこで終わった。
今残るのは、自分の頬を撫でる程度の風と、それに強弱を付け敵の頬に擦過傷を作る程度だ。







「それならば、戮島矢吹ならば可能か?」



試すように言う朱蓮に帰蝶の顔は歪んだ。





「朱蓮ー....お前まさか矢吹に近付こうとしているのか!!?」

「ほう、そんな声も出るのか。」

「誤魔化すな!!!
最近こそこそと地獄を出入りしている事を私が気付いていないとでも思ったか!
矢吹に近付くつもりならお前を殺す!!!」

「殺す、だと?
殺されても殺されても何度も蘇る咎人に対し本気で“殺す”と言うのか?」

「本気だ!
二度と蘇れないよう切り裂いて.....地獄の土にへと返してやる!!!」




両手を鎖で拘束されたまま朱蓮に飛び掛ろうととする帰蝶の手首は赤く濡れていた。




「いいか、朱蓮!
私を見くびるなよ、私は“戮島帰蝶”だ!!!お前なんかよりも長い時間を此処ではない“地獄”で過ごしていたんだ!お前のような小僧、私が本気を出せばいつでも殺せるんだ!!!わかったか!!!!」




興奮した帰蝶が朱蓮に喰いつこうとする度、重く錆付いた鎖が重々しい音を出す。怒り狂う彼女を見て朱蓮は高揚を隠し切れなかった。








「戮島矢吹は既に地獄に来ている.....お前に会う為にな。」


「.....え?」


「それは言い過ぎだな。
現世で交戦となり、偶然にも地獄の入り口に堕ちてしまったと言った方が正しいな。」


「矢吹が.....地獄に堕ちただと!?
ならばアレはー....!!?市丸はどうしたんだ!!!矢吹には市丸が付いているんじゃないのか!!?」


「市丸?
ああ、あの狐目の男か.....あれなら現世に残った。が、そのうち黒崎一護等と共に堕ちて来るだろうな。」


「黒崎一護.....一護も此処へ来ているのか!?ダメだ、虚の血が混じる者が地獄に来れば正気ではいられなくなる。内なる虚に意識を奪われその内自分を無くす!!!」


「それは戮島であるお前達も同じだろう?」


「朱蓮ー.....!!!」





帰蝶の唇には血が滲んでいた。
怒りのあまり唇を強く噛んでしまったからだ。

しかしながら彼女はそれにすら気付いていないようだった。








「どうだ。
これでも私達に協力しないと言うのか?」




嬉しそうに微笑む朱蓮。




それに対し帰蝶は


「.....わかった、お前に協力しよう。」





朱蓮の言葉を受け入れる以外の術が無かった。










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