白昼夢

□どんな夢でも
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大きな壁が迫り来る様な、深い穴に吸い込まれる様な夢を見て、目を覚ます。

背中に嫌な汗をかいている。

閉じたカーテンの向こうに朝の気配を感じる。

夜がゆっくりとゆっくりと白んで、もうすぐ世界が目を覚ます。
この、移ろいの僅かな谷間。


隣に眠る彼女の黒い髪が、シーツの上に緩やかな波模様を描いている。
濡れたように、しなやかなその細い一本一本を触れずにはいられず思わず指を絡ませる。
心に、実はずっと決めているコトがあると言うのに、彼女にはなかなか打ち明けられないでいる。



いつもいつも、彼女は魔法のように俺に言ったことのない様な台詞を口にさせる。

だから、きっと彼女は俺が言いたい言葉を俺より先に整理して、誘導尋問の様にそれとなく聞き出すんだ。
でも、この言葉はそんな彼女の力を借りずに、自分で彼女に聞かせたい。

手を繋いで歩く裏通り。
喧嘩した後の喫茶店。
見惚れていた淡い光のカウンター。
意地悪になってしまう夜の帷。
甘えたくなる柔らかなソファー。
恋に落ちる朝のキッチン。

そして、今日みたいな夢を見た時、寝顔だけで黒い霧の様な気配を掻き消してくれる。

そんな、何でもない様で奇跡みたいな日々をこれからも刻んで行きたいから。

起きている時はしっかりしているけれど、僅かに開いた唇は、ピーターパンを待つウェンディの様にとてもあどけなく俺の目に映る。


そっと、唇に親指で触れてから柔らかな頬に口付ける。
目を覚ますその前に、予行演習。

「大好きなんだ、君が愛しくて本当は一時も離れていたくないほどなんだ。」

眠っているその耳には届かないとわかっていても、なんだか緊張する。

「だから......。」

ゴクリと喉を鳴らす。

「だから......」

ずっと一緒にいて欲しい。


こんな俺を誰かは情けない男だと呆れるだろうか?

そうだとしても、仕方ない。

だって、それは事実だから。
彼女がいなくては仕方ないんだ、本当に。

ほら、君が目を覚ます。
今日が始まる。
夢が消える。

そして、また恋に落ちる。

「おはよう」

少し掠れた柔らかい声。
眠たげな笑顔。

全部、俺に守らせて。

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