白昼夢

□金色の絨毯
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そういえば、あの日金色の絨毯の上にうずくまって泣いていたあの子。

あの後、どうしたんだろう?

フと、窓の外から風に乗って漂ってきた甘い爽やかな香りに窓の顔を上げる。

桜も散り始め、金木犀も落ち始めた時期だと思うけれど

まだ、こんなに強く香るなんて……。


よく晴れた日には木の下に濃い影を落として

秋に向けて、ぐっと欠伸するように花を咲かすそれは、僕にとって春という季節と共に心に焼き付けられている。

それと言うのも、幼かったあの日。

誕生日を迎えたばかりの僕はその花の低い木の下で膝を抱えて泣いているあの子を見つけたから。

あの子は、確かもう直ぐ終わる春休みの午後に近所の子ども達でかくれんぼをしていたんだ。

その近所では、幼稚園から持ち上がりで大体同じ小学校に通っていたし

みんな、幼なじみと言えるような間柄だった。

学年が違う子ども達も、コロコロと絡み合うように良く遊んだ。

それだけ、まだまだ治安も良かったし、交通事情も今ほど子ども達の遊びを妨げるほどの要因にはなりえなかった。

そんな、時代にその子は受験をして私立の小学校に進学する事を選んだ。

いや、選ばされていたと言うのが正しいんだろうけど。

既に小学生になっていた僕は、その子の事を妹のように見ていたし、仄かに初恋めいた対象としてみていたのも確かだった。

そんな風に想っているその子が泣いているのを僕は見過ごせなかった。

そっと、金色の星を敷き詰めたような絨毯の上に何故だか正座して向き合うと、誕生日プレゼントで貰ったばかりの帽子をその子の頭にスッポリと被せて

「あげる」

と、言ってしまった。

ビックリしたように顔を上げた時、大きすぎる帽子のツバはその子の表情を隠してしまった。

口元が少し開かれていたし、きっと目も丸く開かれていたんだと思う。

その子が泣いていた理由の本当の所は今となっては分からない。

けれど、あの日の僕は自分がなんとかしてあげなければ……。

なんて、考えて居たんだろう。

好きだったと言えば少し大袈裟だけれど……。

その後、その子を見る機会はやっぱり減ってしまった。

異性のしかも年下の子と遊ぶことなんて恥ずかしいと思う年になり、同級生の男子(と、言う単語もなんだか懐かしいけど)と遊ぶ事に忙しくなって時間は過ぎた。

時々、金木犀の季節になると貰ったばかりの帽子をなくした事を叱られた思い出とともに、木の根元にうずくまったその子を思い出す程度になった。


甘い香りを吸い込むように、1つ深呼吸すると目を閉じる。

「あれから、どうしたかな?」

勿論、あの子も今頃は「彼女」と呼ばなければいけない歳になっているんだろけど……。

僕の中ではいつまで経っても子ども用の帽子でもブカブカな小さな少女のまま。

僕は、どうだろう?

体も精神的にも歳を重ね、大人になり変わった部分の方が多いに決まっている。

でも、基本的な資質……殊、人を想う部分にかんしてはあの日のそれと大きく変わっていないんじゃないだろうか?

金色の絨毯は、濃い影を落としたその木の下でもキラキラと輝いて、今でも僕の胸の中にあの子を住まわせている。

僕の仄かな初恋の香りと共に……。
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