白昼夢

□あのひ
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そういえば、あの日も風が強かった。
空を見上げると、大きな雲がちぎられるように流されてビルの向こうに消えていった。

びゅうびゅうと音をたてるビル風に、髪がかきあげらてぼさぼさになるのも構わずカメラのレンズを空に向けていたら、君のストールが俺を直撃したんだ。


「すみませんっ」
慌てて、ストールの端を引っ張って手元に戻そうとした拍子に俺のカメラは手から離れて君の足元へガシャン。
「きゃぁっ!すみません!本当に私っなんてことをっ!いやぁっ割れてます!やだ、弁償しますから!あぁ、でも、そうだ名刺、名刺お渡ししますんで連絡してくださいっ」
真っ赤になって、額から汗が噴出して、割れたレンズを見て、真っ青になって。
おもわず、そんな君を見て俺は笑っちゃって。
押し付けるように渡された名刺と走りながら、時々振り返ってはごめんなさいと謝りながら小さく人ごみに紛れていく君。
あんな衝撃的な出会い、忘れられるわけがない。


「なになに、ニヤニヤしちゃってぇ」
名刺を眺めて連絡してみるか悩んでいると、安岡がちょっかいを出してくる。
「いや、別に」
「うっそー。すっごいやらしい顔してたもんねぇ」
隠すように手のひらで
覆っていた、名刺を取り上げられる。
「ふーん、女の人の名前だけど、これだーれーかーなー?どうやって手に入れたの?」
「いや、それは、さっきぶつかってだな。」
「ぶつかっただけで、名刺ゲットなんておかしい。」
「いや、それは。あの・・・その拍子にカメラが」
「カメラ?」
割れた、レンズを見せると安岡のテンションがシューンと音をたてるように下がっていく。
「なーんだ、で、弁償するから連絡してくださいって?」
「そう、そうなんだ」
「でも、それでどうして雄二の顔がやらしくなんのさぁ?」
何故か、ふて腐れて安岡が聞いてくる。
「あ、分かった。その人に雄二が一目惚れしたんだ!」
「あ、いや、そういうわけじゃ!」
「美人だったんだ、ふーん、そうかそうか。面食いの雄二が一目惚れするほどの美人かぁ」
慌てる俺の顔を満そうに眺めると、軽くスキップを踏みながら安岡が去っていく。
弁解しようと、安岡を追って廊下に出るがもう既に時は遅し。
ヤツの姿はもうなかった。


「ゆうじさん、何考えてるの?」
空にカメラを向けたまま、動かない俺に君が尋ねる。
カシャ。
昔からのフィルム一眼レフのシャッター音を完璧に再現した音が耳に響く。


「いや、別に。思い出してたんです。」
「何を?」
「君と出会った日も、こんな空だったなぁって。」
「え?」
「ほら、覚えてるでしょ?あの日」
とたんに、君の顔が真っ赤になる。
「いやだぁ、もう忘れてよ!あんなの、恥ずかしすぎるっ」
忘れられるわけがないじゃない。
あんな、衝撃的な出会い。
こんなに、かわいい人に出会った記念すべき日。

空に向けていたレンズを君に向ける。
今日で2年目。
何度となくカメラに収めてきた君は、少しずつ自然になって
今は、俺を見つめる時と同じ表情。


大好きな、君を今日もカメラに収めて
出会いに感謝する。



強い風が、君のストールを巻き上げる。
顔を隠されて、慌てる君がかわいくて思わずまたシャッターを押す
「あ、もう!やめてよ!」
顔を真っ赤にして、怒るから髪をくしゃっと撫でて。
抱き寄せる。


「1年間ありがとう。2年目もよろしくお願いします」

23082010

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