短編

□世界中の誰よりも
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「もし、私が死んだら赤也の近くでずっと見守っててあげるからね」

「何だよいきなり。縁起でもねえ」

「うーん、何となく?」

「…意味分かんねえ」





そんな会話から数日後、名無しは交通事故で帰らぬ人となった。



今思ったらアイツは自分が近いうちに死ぬってことを分かってたんじゃねえかって思う。





「久しぶりだな、名無し」





俺は毎年かかさず名無しが大好きだった花を持って会いに行く。


花を添えて、慣れた手付きで墓を掃除し、休憩がてら一服する。





「…お前が死んで何年になるんだろな。
俺も、もう煙草吸える年になっちまった」





もし名無しが生きてたら、身体に悪いからって俺のこと必死になって止めるだろうな。


なんて、あるはずのないことを考える自分に苦笑しながら煙を吐き出した。



ここに来るといつも感傷的になっちまう。





「俺さ、やっぱりお前が好きだ」






深く息を吸って、煙草の味を堪能してから火を消す。






「多分これからもずっと」





名無しが居なくなって、先輩達も俺も色々変わった。それでもこの気持ちだけは変わることがなかった。






「まだお前の所には行けねえけどさ。
あの時言ってた言葉が本当なら、俺もお前も寂しくねえよな」





俺の傍で見守ってくれると言った。
アイツは一度言ったことは必ず守る奴だから、きっと今も俺の傍に居るんだろう。


あの時の言葉がまさか現実になっちまうなんてこれっぽっちも思わなかったけど。





「まぁその内逝ってやるからさ、大人しく待ってろよ」





そう言って帰ろうと立ち上がったと同時に一陣の風が吹き抜けた。


まるで名無しが「待ってるよ」って言ってるみたいで俺の顔から自然に笑顔がこぼれた。







世界中のよりも
(ずっとお前を愛してる)
(この言葉が)
(風に乗ってお前に届けばいい)


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