偽りのオレンジ
□其の二 オレンジの景色
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「う・・・ひっく・・・」
「また明日来てやるからもう泣くな、なっ?」
泣いている小さな女の子の頭を、慰めるように一護はしゃがんで撫でた。
女の子は「うん」と小さくうなずいて、泣きやむ努力をする。
来ているワンピースの袖で目をぬぐい、不器用に笑った顔を一護に見せた。
そのそばには、細長い小さな花瓶がある。
しかし、花瓶は倒れていて、中の水も、花も、全て道路にぶちまかれていた。
「よし!!泣きやんだな。じゃぁ明日来るときに新しい花も一緒に持ってきてやるよ。」
よいしょと、一護は立ち上がり、ぶちまかれた花と花瓶を拾い始める。
「ありがとうお兄ちゃん。」
そういう女の子は一護を手伝うことはしなかった。
いや、できなかったのだ。
頭から血を流している彼女はもう“この世の者”ではないからだ。
いわゆる幽霊というやつ。
幽霊は“この世の物”に触ることはできない。
つまりは花瓶どころか、自分をいつも気にかけてくれる一護にすら、触ることができない。
それなのになぜ、花瓶が倒れているのかというと、もちろん一護のせいではない。
実はさっきまで、その花瓶と同じように、不良っぽい人たちが道路にぶちまか・・・倒れていた。
それは花瓶を誤って(←自称)倒した不良たちに、一護はかかと落としとラリアットを決めたからだ。
一護は「絶対、花持ってくるから」ともう一度言い、指きりゲンマンをして帰宅した。
夕日に照らされた一護の背中が見えなくなるまで、女の子は見送り
「ありがとう。」
小さな声で呟いて、オレンジ色に染まった景色に とけて 消えた。
それは一瞬の出来事だった。