ANGELS〜琉奈ちゃん太陽くんシリーズ〜

□ヒロユキパパの子育て奮闘記
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「琉奈も太陽も、随分大きくなったね〜。」
 キッチンに立つ大ちゃんにそう言った。
 体をずりながら動いていた琉奈も太陽も、今ではハイハイが、上手に出来るようになった。

 青空の下、みんなを照らし出して元気にしてあげる様な男の子に育って欲しくて、『太陽』と名付けた。
 闇夜、星たちと一緒に光り人の心を癒してあげる様な女の子に育って欲しくて、『琉奈』と名付けた。
 2人とも、大切な我が子だ。

「子供の成長は、本当に早いね。」
 と大ちゃんが返事をする。
「今日ね、10時から2時まで仕事なんだ。ヒロに琉奈と太陽、任せても大丈夫かな?」
 産後、大分落ち着いてから、数時間の短い間だけど、大ちゃんは仕事に復帰した。オレたち二人とも仕事の時は、どちらかの両親が琉奈と太陽のお守りをしてくれている。オレは今日は1日、完全オフだ。
「うん、大丈夫だよ。余り母親に頼りっきりも、よくないよね。オレ頑張るから、心おきなく行っておいで?」
「ありがとう。でもヒロ1人で大丈夫?離乳食は作り置きして冷凍庫に入っているから、チンしてあげてね。オムツの替えはベッドサイド、マザーズバッグは机の上、ミルクは………。」
 大ちゃんは、急いで仕事の準備をしながら、オレに忙(せわ)しなく説明する。
「うん、解ってるよ。………オレってそんなに信用無い?」
「だって、ヒロも、大きな子供みたいなものでしょ?不安だなぁ………。」
 琉奈と太陽を抱いているリビングに、クスクスと笑いながら大ちゃんが歩いてきた。
「琉奈〜、太陽〜、ママお仕事行ってくるねー。パパと仲良くするんだよー?」
 大ちゃんが、2人のおでこにちゅーをする。
「あーうー。」
「うーうー。」
 琉奈も太陽も、『解ってるよ』と言ってるみたいだ。
「大ちゃん、オレにもしてよ?『行ってきます』のキス。」
 オレはわざと拗ねた様に言ってみた。大ちゃんは苦笑いして、オレのおでこを掠める様にキスをした。
「そこじゃなくて!!ココにキスして?」
 オレは口唇を突き出す。
「琉奈と太陽が見てるよ〜?」
 そう言いながらも、口唇にキスをしてくれる。触れた口唇を離さずに、深いキスをする。
 琉奈と太陽は、オレの服を引っ張りながら遊んでいる。2人とも、もうイヤって言う程、見飽きているんだろうな。
 でもね、『パパとママが仲良しなのは、家庭円満の秘訣だよ』と、琉奈と太陽が大きくなったら教えてあげよう。
「大ちゃん、愛してるよ。」
「僕も、愛してる。じゃあ行ってきます………。」
 2人を抱き抱えて、大ちゃんを見送る。
「いってらっしゃい!!」
 大ちゃんは何度も振り返り自宅を後にした。後ろ髪を引かれる思いなんだろう。だって、オレもそうだから。仕事に行く時も仕事をしている時も、琉奈と太陽の顔がいつも浮かぶ。勿論、大ちゃんの事もね。
「ママ、行っちゃったね〜。今日は思う存分、パパと遊ぼうね。」
「うーやー。」
「うーあー。」
 返事をしてくれてるようだ。
 あっと、その前に洗濯物を干さなければ。今日は雲一つ無い快晴。洗濯物もよく乾くだろう。
 窓から入る風が心地よい。これが終わったら、琉奈と太陽を公園に連れて行こう。
 琉奈と太陽を床に下ろすと、洗濯物を持ってベランダへ出る。琉奈と太陽がベランダへ出ない様に、片足で網戸を閉める。
「やっぱりちいちゃいなぁ。」
 自分達の洗濯物を粗方干した後、琉奈と太陽のつなぎや靴下を干しながらそう言う。やっぱり凄く愛しくと感じる。小さな命。オレが守ってあげなきゃと思う。
「琉奈、太陽!公園行こうね?」
 マザーズバッグを探して、レジャーシートと替えの紙オムツ2つ入れる。他に必要なものはマザーズバッグに並んで入っている。
「きちんと並んで入ってるなぁ………大ちゃんらしい。」
 と妙な事に感心してみたりして。
 気が付くと、太陽はその場に座り込んでるのに、琉奈は既に玄関がある方まで歩いている。
「せっかちだなぁ、琉奈は。間違いなくパパ似だよ。」
 オレの両親も、そう思って育ててくれたのだろうか?今度電話で聞いてみたい気がする。
 座っている太陽は指をくわえ、大ちゃんに似たくりくりの円らな瞳で、『どうしたの?』って顔でオレを上目遣いで見上げている。その仕草、大ちゃんそのものだよ。
「あははっ!太陽、そんな顔でパパを見るなよ。2人とも間違いなくオレたちの子供だ。」
 双子なのに、どうしてこうも性格が違うのだろう。しかも、しっかり2人とも、オレたちにそっくりだ。
 2人分のベビーカーを用意して、琉奈と太陽を乗せる。動いて怪我しないようにベルトを止める。
 さぁ、出発だ!!
 公園までの道のり、赤ちゃんを抱いたお母さんたちや、小さな子供真ん中に挟んで手を繋ぐ家族とすれ違う。『こんにちは』と他愛ない挨拶を交わす。
 琉奈と太陽が一番可愛いと思う。そう、世界中で一番に。安部ちゃんに『博之はそーとーの親バカだわ』って言われてるけどね。
 初夏の風は、草花の青い香りを運んで気持ちがいい。足を止め、ベビーカーを覗くと、2人とも、そよそよと吹かれる風に眠っていた。
 そんな我が子に、幸せを感じる。オレが一生守るよ。キミたちの為なら命だって投げ出せる。
 また歩きだして数分経った頃、公園に着いた。色とりどりに塗られた遊具と点々と置かれたベンチ。さほど広くないけれど、小さな我が子には充分な大きさだ。
 芝生の上に、ミッキーとミニーがプリントされたレジャーシートを広げる。
 まだ寝てるかな?と覗いたベビーカーは、太陽は眠っていたけれど、琉奈は目を覚まし、身を乗り出して公園の方に手を伸ばしている。
 やれやれ、お転婆(てんば)な、お姫様だ。まずは、琉奈を下ろして、レジャーシートに座らせる。そちらを注意しながら、太陽を起こさない様に、抱き抱える。
 琉奈と並んで腰を下ろす。琉奈は、遊具で遊んでいる自分より大きな子供たちに興味をもったみたいで、『うーーうーーー』と言いながら手を伸ばしている。
「琉奈、もっと大きくなったら、パパと一緒に乗ろうね。」
 と話し掛けた。琉奈がまるで解ったかの様にこちらを見て笑った。
 この子がもっともっと大きくなって………お嫁に行く事になったら、オレはどんな気分になるのだろう。そんじょそこらの男には、嫁にはやらないぞ。ましてやオレみたいなタイプには………。そう思って、自分自身に笑いが込み上げてきた。ただのバカ親じゃん。でも、それ位大切で愛しいんだ。
 すると、腕の中の太陽が泣きだした。
「ん?お腹減ったのかな?おしっこかな?」
 大ちゃんは泣き声を聞いただけで、瞬時で状態を聞き分ける。この泣き声はミルクを、この泣き声はおねむ、この泣き声はオムツの替えを………と。やはり、ママなんだよね。一年近く血肉を分け与えて、生まれてからもずっと一緒に居るから。
 つなぎから指を入れて確かめると、オムツが湿っていた。おしっこか。
「太陽、少し待っててね?オムツ替えてあげるから。」
 太陽をレジャーシートに寝かせてつなぎを脱がせる。マザーズバッグの中に入っていたウェットティッシュでお尻を拭き、新しい紙オムツを履かせてつなぎをまた着せて終了。
 太陽が、気持ち良さそうに笑った。笑った顔が大ちゃんに似ている。太陽もどんな風に成長していくのだろう………。
 ………と、オレの横を見ると、琉奈が居ない。何にでも好奇心旺盛な琉奈は、目を放すと直ぐにあちこち這い回る。オレは焦って周りを見た。
 あ!居た!!芝生の上を楽しそうに歩いてる。よかった………お留守番を、大丈夫だから任せてって言っていたのに、2人に何かがあったら、申し訳がたたない。
「……琉奈………!」
 呼び掛けると、こちらを見た。太陽をベビーカーに乗せると、琉奈の方へ歩きだした。
 目の前で笑ってる琉奈が、突然何かに弾き飛ばされた。視界の中から琉奈が消える。見るとオレの足元にサッカーボールが転がってきた。
「ふぎゃあああぁぁーーー!!」
 耳をつんざく琉奈の泣き声。
 オレは全速力で走りだした。弾き飛ばされた琉奈を抱き抱える。額(ひたい)から頬にかけて赤くなり、たんこぶが出来ていた。
「うわあああぁぁぁーーーん!!」
 ずっと泣き止まない。サッカーをしていたんだろう小学生が、謝りに来たけれど耳に入らなかった。
 何て様(ざま)だよ。どんな事からも守って誓ったのに。大ちゃんにも心配をかけれない。泣き止まない我が子を抱きしめ、近所にある掛り付けの小児科へ向かった。

「お父さん、大丈夫ですよ。今のところ、頭に異変もありませんし、大きなたんこぶが出来てますので、悪い事じゃありません。赤ちゃんの骨は柔らかく出来ているので、骨折とかもありませんし。」
 琉奈は、小児科の診察室が珍しいのか、楽しそうに辺りを見て、きゃっきゃっ、と喜んでいた。
 オレの方が泣きだしそうだよ。でも、琉奈が大丈夫でよかった。
「お父さんも落ち着いて下さいね。子供さんに怪我は付き物ですから。」
 先生が笑って言った。
「ありがとうございます。」
 お礼を言って立ち上がる。先生と看護婦さんが、
「お大事に。」
 と言う言葉を背中に受けて、診察室を後にした。

 2人分のベビーカーを押しながら自宅へ着いた。時計を見れば、1時を回っていた。
 離乳食の用意をしなくては。琉奈と太陽をリビングの床に下ろした。ソファーで一息吐きたいけれど、そんな場合ではない。
 2人分の離乳食をレンジでチンして、トレイで運ぶ。
「はい、あーん、して?」
 と交互に、口元に運ぶ。2人とも元気よく食べてくれる。
 パパもようやく元気になってきたよ。
 キッチンで後片付けをしていると、ドアが開く音がした。『ただいま!!』と声がする。
 オレはリビングで、大ちゃんを迎えた。今日、あったことを、ちゃんと話さなければ。
「あのね………大ちゃん………。」
 そう言って、公園に出かけた事、太陽のオムツを替えている間琉奈の事に気を付けていなかった事、琉奈にサッカーボールが当たった事、病院へ連れていった事、全てを話した。
「オレ、パパ失格だよね。大丈夫って言ったのに、全然大丈夫じゃ無いじゃん………。」
 そんなオレを、大ちゃんは、ふわり、と抱き締めてくれた。
「子供に怪我は付き物だよ………。ちゃんと病院にも連れていってくれたし。大丈夫だよ。立派にパパだよ?」
 そうして、オレの髪を撫でてくれる。それに安心した。オレはまだ………大きな子供、だよ………。
 それでもね。琉奈と太陽と大ちゃん、オレの家族を守っていきたいと思うんだ。この先、ずっと。



 こんな、素晴らしい家族を、オレに与えてくれてありがとう。
 神様。

       《END》
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