ANGELS〜琉奈ちゃん太陽くんシリーズ〜

□YOU ARE OUR ANGELS
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「大介、ファンレターここに置いとくわよ。」
 僕の『敏腕マネージャー』こと安部ちゃんが、段ボールいっぱいの手紙を届けに僕専用の休憩室までやってきた。以前は喫煙ルームとして使っていたこの部屋。でも僕のお腹の中には赤ちゃんがいる。大切な大切な、僕とヒロの赤ちゃんだから、僕は禁煙をした。長年煙草を吸ってたから、かなり苦労したけれど。愛しい我が子の為なら、それも苦痛じゃなくて。
 僕の体も安定期に入り、今はラジオの仕事や、表舞台に立たない作曲やプロデュースの仕事をしている。
「ありがとう、安部ちゃん。休憩がてらに読もうかな?」
 ファンレターの大半は、僕たちの妊娠、結婚を喜んでくれて、応援してくれる内容。たまに、『がっかりしました』なんて事が書かれている事もあるけれど。
 安部ちゃんもスタッフも、祝福してくれている。
 ヒロも、仕事の合間を縫い、必ず僕の病院に一緒に来てくれる。
 僕の両親も、ヒロの親御さんも、気が早くて、ベビーベッドやら、ベビー服やら、おもちゃやらを届けにやってくる。
 お腹の中の、この子たちは幸せなんだ。沢山の人たちに祝福されて愛されて………。
 そういえば、エコーで見たら、タツノオトシゴみたいな胎児が2つあったんだ。どうやら双子みたいだ。
 何故だか嬉しさが倍増した。
「……あっ………!!」
 擦っていたお腹の中で、赤ちゃんが足を蹴ってきた。
「どうしたの?大介。」
「今、お腹をキックされた。力強くて、激しく動くからヒロに似てるのかなぁ?」
「そりゃあ、間違いなく、ヒロの子ね。」
 安部ちゃんが意地悪そうな顔をして笑う。でも、安部ちゃんも、まだ産まれてこない赤ちゃんにメロメロで、ぬいぐるみや、ベビー用品や、果ては『たまごクラブ』なんかを衝動買いして、僕に渡してくれる。
「だよねー。うちには大きな子供が居るんだけど、この子たちが産まれてきたらどうなっちゃうんだろうね?」
「そうねぇ、博之もやんちゃ坊主だものね。でも、ああいうタイプは案外いいパパになるわよ?」
 安部ちゃんがヒロを誉めるなんて珍しい。明日は雪が降るかも、なぁんて、ね?
「じゃあ、私は行くわね。今日は大した用事は無いから、大介はもう上がっていいわよ。」
 安部ちゃんは、僕の体を第一に考えてくれる。
「じゃあ、ヒロにメールしなきゃ。」
 携帯を取り出して『今日はもう、仕事終わったよ。』ってメールする。1分もしない内に、返事が返ってくる。『OK☆あと一時間で終わるよ。スタジオ迎えに行くね♪』との返信。
 ヒロの仕事が遅くならない限り、ヒロは僕を迎えに来てくれる。僕の体を気にしてくれる。本当に愛されてると実感する。
「博之が迎えに来てくれるのね。あぁ、この部屋熱いわねー。熱すぎてのぼせちゃうから、私は退散するわ。」
 僕をからかって、そそくさと休憩室を後にする。
 もう。安部ちゃんったら。
 あぁ、ちょっと眠いかな。僕はファンレターを机に置き、欠伸(あくび)をすると、目を閉じた。深い眠りに誘われる………。

  * * *

 体がふわふわと、宙に浮いて揺れている。んー、安部ちゃんが居なくなった後、手紙を机に置いて寝ちゃったんだっけ。
 ……………。
 ……………?
 ……………!?
 重い瞼を開けると、ヒロにお姫様抱っこをされていた。
「………ヒロぉ………。」
 僕は恥ずかしさでいっぱいだった。
「あっ、起きちゃった?ゴメンね。」
 あっけらかんと返事をするヒロ。
「……恥ずかしいよぅ………。自分で歩けるよぅ………。」
「大ちゃん、ぐっすり眠ってたからさ。起こすの可哀想だったから抱っこしてきちゃった。」
 ビミョーに噛み合わない会話。このまま身を預けていた方がよさそうだ。僕は諦めて、目をつぶった。
「大切な体だからね。お腹の赤ちゃんも、大ちゃん自身もね。」
 ヒロが鼻歌を歌ってる。あぁ、この声、やっぱり好きだなぁ………。お腹の赤ちゃんたちも喜んでるのか、お腹の中で動いている。
 ヒロが、胎教だからって言って、毎日お腹を触りながら、語り掛ける様に歌うのが習慣になっている。
「ヒロの鼻歌に反応して、赤ちゃんたちもお腹の中で踊ってるよ?」
 ヒロに言った。ヒロは満面の笑みを浮かべる。パパの顔になってる。
「あ、車に着いちゃった。下ろすから助手席に乗ってもらっていい?」
 そう言って、ゆっくりと僕を下ろす。ついでに助手席のドアも開けてくれる。………あぁ、恥ずかしかった。でも、ヒロの優しさからくるものだから。
「ありがとうね、ヒロ。」
 僕は、ヒロの頬に、チュッとキスをした。
「だーいーちゃーんー!!ここにキスしてぇ!!」
 口唇に手を当てて、おねだりするヒロ。もうっ、大きな子供なんだから。でも、惚れた弱みってやつかな………その願いを叶えてあげる。口唇を重ね合わせる。ヒロの舌が侵入してきた。それに応える様に、舌を絡ませる。
 ヒロは名残惜しそうに口唇を離すと、
「さぁ、我が家へ帰ろうか。」
 と、運転席に向かった。僕は、
「うん。」
 と返事をした。

  * * *

「ああっ………痛い……痛い………!!」
 僕は、キッチンで蹲(うずくま)った。お腹が、下腹部に脈打つように痛みが走る。
 蹲った時に落とした茶碗が割れる音に気付いて、ヒロがキッチンに駆け付ける。僕は、激痛で動けない。これが陣痛なのかな。
「大ちゃん!大ちゃん!!大丈夫!?」
 頭から冷や汗が滲んでくる。言葉では表せない痛み。
「だい…じょうぶ、じゃ……ない………。ヒロぉ……おなか………いたい………。陣痛かも………。」
 座っているのも苦痛で。
「オレ、仕事キャンセルする!!」
 ヒロはそう言って携帯で事務所に電話をかけている。
「取り敢えず!大ちゃん、車まで運ぶから!!病院へ行こう!!!」
「う………ん……。」
 僕は、頷(うなず)く。僕を軽々と抱えあげるヒロ。玄関のドアを開けて、エレベーターに乗り、エントランスへ出る。
 僕はその間、激痛で、『痛い、痛い』としか言えなくて。
「大ちゃん、大丈夫だからね。オレが付いてるから。病院まで我慢してね?」
 そう言って、僕を助手席に横たわらせた。ヒロの優しい声に安心する。
 ヒロは、運転している間中、僕の手を握り締めてくれていた。

  * * *

「いたーい!いたいよぉ……ひろぉ………。」
「浅倉さん、大丈夫ですよ。陣痛が始まりましたから出産ができます。以前に説明した通り、男性の出産は半身麻酔で帝王切開になりますから、すぐに痛みも感じなくなります。」
 そんな事言われたってぇ………痛い痛い痛いぃ。痛いものは痛いぃ。ヒロが居ないから心細いし………。何で男の時は、立ち会い出産は出来ないの………。
「いたいぃ………ヒロぉ。」
「直ぐに先生がいらっしゃいますから。麻酔かけますね。そうしたら少し楽になりますよ。」
 麻酔をかけられる。暫くするとお腹の痛みが薄らぐ。少し冷静になってみると、僕って情けないなぁと思う。『痛い、痛い』って叫んで………ちゃんとしたママになれるかな?
「……僕、恥ずかしいですね……取り乱しちゃって………。」
「そんなことありませんよ。男性の方が陣痛が酷いんですよ。泣いちゃう方もいらっしゃいますから。」
 ………よかった、泣かなくて。
 帝王切開の手術の用意が始まる。半身麻酔だから、痛みも無く出産できる。そして、すぐに赤ちゃんと対面できるんだ。
 カチャカチャ鳴っている手術の道具の音を聞くと、ちょっと怖いけれど。
 でも僕と僕の赤ちゃんたちは、ヒロに、みんなに祝福されて産まれてくる。新しい命を授けてくれた、神様にも感謝する。
 僕は、ゆっくりと目を閉じた。

  * * *

―――――オギャア オギャア オギャア オギャア…………

―――――オギャア オギャア オギャア オギャア…………

「浅倉さん、見てください。元気な男の子と女の子の双子です。」
 新しい命の誕生。僕は、目を開けて看護婦さんを見る。大事そうに抱えられた赤ちゃん。
 僕は、そっと手を伸ばし、産まれてきた赤ちゃんを抱く。赤ちゃんの泣き声は、手術室の前で待ってくれている、ヒロに届いたのかな?産まれてきた子たちは、『赤ちゃん』と言うだけあって、肌を赤くしながら泣いている。
 あぁ。
 今まで、こんなにも愛しく感じる存在があっただろうか。
 胸の真ん中が、熱い。
 お腹の中で、一緒に過ごした思い出か蘇る。
 そしてこれからは、ヒロとこの愛しい僕の子供たちと一緒に、たくさんの思い出を作っていくのだろう。
 僕は、愛しい小さな天使たちに頬擦りをした。

  * * *

「琉奈(るな)、太陽。ミルクの時間ですよ〜。」
 仲良く並べられた二つのベビーベットに、声をかけて抱き上げる。
 男性の乳腺は、発達してないので、母乳は出ない。だからベビーミルクでの授乳。
 人肌まで冷めた哺乳瓶を持って、琉奈と太陽を抱き抱える。
「琉奈はパパのトコロね〜。」
 琉奈を哺乳瓶と共に、ヒロへと預ける。最初はおっかなびっくり抱いていたヒロだけど、今は手慣れた手つきでミルクを飲ませている。
「琉奈〜、元気だな〜、そんなに急いで飲まなくても無くならないよ。」
「せっかちなパパに似たんじゃない?」
 女の子の琉奈は、目が大きくて口唇が少し厚くて、パパそっくり。
 僕は、ヒロの隣に座って、太陽の口に哺乳瓶を近付ける。
 男の子の太陽は、円(つぶ)らな瞳と薄い口唇が、ママそっくりだと言われる。
「太陽も、いっぱい飲んでおっきくなろうね〜。」
 んぐんぐと、哺乳瓶に吸い付いて飲んでいく。
「可愛いなぁ………。」
「可愛いねぇ………。」
 僕とヒロは見つめあい、そう言った。チュッ、と軽く触れ合うキスをする。
 琉奈も太陽も、僕たちの宝物。かけがえの無い存在。
 先にミルクを飲み終わった琉奈を、ヒロは『たかいたかい』をする。目を細めて
「ねぇ、大ちゃん。琉奈も太陽も愛しくてたまらない。」
 と言った。
「そうだね、ヒロ。何物にも変えがたいね。」
 僕もそう答える。
「琉奈も太陽も、天使だよ。神様がくれた、天使の贈り物。」
「うん。僕たちのちっちゃな天使。」
 ヒロが琉奈を抱き抱えて、ベビーベッドへと寝かせる。また戻ってきて、僕の隣へと座る。
「でもね、一番愛してるのは大ちゃん。琉奈も太陽もおっきくなったら、言うんだ。『パパはママを一番愛してる』んだって。」
「………ヒロ……。」
「でね、『琉奈と太陽はパパの一番大切な宝物』なんだって。」
「………ヒロぉ……。」
 僕の瞳から涙が落ちた。ヒロは、そんな僕を引き寄せて、涙を口唇で拭ってくれる。そして僕の口唇に、深くて甘いキスが舞い降りた。

 これから先も、一番愛しているヒロと、宝物の琉奈と太陽と一緒に、ゆっくり歩んでいこうね、ヒロ。

       《END》
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