ANGELS〜琉奈ちゃん太陽くんシリーズ〜

□BABY!BABY!
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『今日のラジオのゲストはヒロです。今日はね、僕達のね、大切な報告があります。みんな祝福してくれると嬉しいんだけど………。』



「大ちゃんさ、今から休憩でしょ?一緒に飯食いに行こうよ。」
 何時もの口調、何時もの笑顔で、ヒロが僕を誘ってきた。
 2つ返事で、了承したいんだけど………最近、僕の体調が変で………。
 やたらと眠いの。正直仕事に支障を来(きた)す位に。それに、甘いものより酸っぱいものが欲しくって。今も100%のグレープフルーツジュースを飲んでいる。
「行きたいのは山々なんだけど………ここの所体調がおかしいんだ。凄く眠いし吐き気もするし………。」
 不安そうに覗き込むヒロの顔。
「そういえば、差し入れのケーキ食べてないね。甘いもの大好きなのに。」
 おかしいなぁ………って顔してる。心配顔のヒロ。
「さっきからジュースばっか飲んでるし………。仕事、辛い?安部ちゃんに聞いてきてあげようか?」
「うん。そうしてくれると有り難いな。何か動けそうに無くて。」
「じゃあ、行ってくるね。」
「うん、ありがとう。」
 ヒロの背中を見送り、椅子に深く腰を掛けた。あぁ、僕、また太ったかな?ズボンがキツいよ。
 無意識にお腹を撫でていると、安部ちゃんとヒロが青い顔をして飛び込んできた。
「大介!あなた!!」
 口をパクパクしている安部ちゃん。そんなに青い顔して何があったんだろう。
「どうしたの?安部ちゃん。………僕、ちょっと具合悪いんだ………。」
 欠伸をしながら、安部ちゃんに話し掛ける。
「安部ちゃん、落ち着いて。」
 ヒロが安部ちゃんの背中を擦(さす)っている。
 安部ちゃんは深呼吸してこう言った。
「大介、あなた、妊娠してるかもしれないわよ!?」
「へ?」
 僕は間抜けな返事をする。男の僕が妊娠!?
 最近ニュースで聞いたことがある。近年男性同士の間でも妊娠して出産する事例が少なくないことを。
 でも、まさか。僕が。
「またまた〜。安部ちゃん冗談が過ぎるよ。」
 僕は笑い飛ばしたけれども、安部ちゃんはいたって真面目な顔をしている。
「ずっと眠いんでしょ?それに甘いものにも目をくれずに、そんな酸っぱいジュースばかり飲んで。」
 そこで、安部ちゃんは一息吐(つ)いた。
「気持ちが悪いんですって?………それ、悪阻(つわり)よ!?」
「えっ!ええ〜!!!」
 僕は、倒れそうになった。僕が、妊娠!?頭がクラクラする。
「まだ決まったわけじゃないけど………そうね、妊娠検査薬買ってくるわね。大介、気を確かに持ちなさい。」
 安部ちゃんが僕の背中をさすって、優しい声でそう言ってくれた。そして、後ろを振り向くと、ヒロに、
「博之!!アンタ、ちゃんと気を付けなさいって何度も言ったわよね!!もう、どうするの!?ちゃんと避妊しなさいって言ってたのに………。」
 と、怒鳴った。
「ごめん!!安倍ちゃん!!でも、オレ、大ちゃん好きな気持ちは代わりが無いからちゃんと責任とるよ!!」
 こんな時でもヒロって男前だ。カッコいいな〜って!!そんな場合じゃなかった!!
「あのさ、安部ちゃんさ、先に検査薬買って来たほうが………。僕も不安だし………。」
 安部ちゃんの肘の辺りを摘んで、呼ぶ。
「それもそうね。じゃあ私近くの薬局で買ってくるから。その間、博之とこれからの事を話してなさい。」
 安部ちゃんはそう言うと、ハイヒールを鳴らし走っていった。
「………この前の中出し、マズかったかな………。ごめんね、大ちゃん。」
 ヒロが僕の目線まで屈んで、髪を撫でてくれる。
「いいよ、僕の不注意でもあるからさ………。でも検査薬ってどうするのかなぁ?」
「器具の先端に、おしっこかけて、一分待つんだよ。」
「………何で知ってるの?」
 僕の視線が痛かったのか、ヒロの目が泳いでいる。
「オレ、ちゃんと責任取るよ。生半可な気持ちで大ちゃんと付き合ってる訳じゃない。」
 ヒロはそう言って、僕にキスをしてくれる。まだ結果は解らないけれど、その気持ちが嬉しかった。
「うん、ありがとう。まだそうと決まったわけじゃないけど嬉しい。」
 僕からもヒロのその柔らかい口唇にキスをする。
「女の子かなぁ?男の子かなぁ?」
 妊娠だと決まったわけじゃないけど、ヒロが僕のお腹を擦る。何て優しい顔。
「気が早いよ〜、ヒロってば。先ずは安部ちゃんが………。」
 そう言いかけた所で、遠くの方から、カツカツとハイヒールが鳴る音。安部ちゃんが帰ってきた様だ。
 安部ちゃんがドアを開け、紙袋を僕の目の前に押しつける。
「先ずは検査してきなさい。使い方解る?器具の先端に………。」
「うん、解ってる。ヒロに教えてもらった。」
 僕の答えに、安部ちゃんはヒロを見て、
「博之、アンタって人は………。」
 と頭を抱える。小さくなって苦笑いするヒロ。
「じゃあ、お手洗い行ってくる。」
 僕は重い腰を上げた。

  * * *

 安部ちゃんから貰った紙袋から箱を取り出して開ける。器具をセットしておしっこをかける。
 じわじわと水分が上り、印の部分まで浸透する。一分もしない内に、横線だった印は見事に十字になった。

 妊娠確定。
 あはは。

 器具をまた箱に戻すとスタジオに帰った。
「「どうだった?」」
 ヒロと安部ちゃんは、待ち構えていたとばかりに、そう言った。
「『おめでた』みたい。」
 僕は、照れ臭かった。
「おめでとう、大介。」
「マジで?マジで?オレの子だよね?やったー!!」
 冷静な安部ちゃんとは逆に、ヒロが予想外にとても嬉しそうにはしゃいでる。そんなヒロに、安部ちゃんは鉄拳を食らわせた。
「イテテ………安倍ちゃん、酷い………。」
 涙目のヒロ。少し笑ってしまった。
「嬉しいの解るけど、少し落ち着きなさい、ヒロ。本当におめでたい事だけど、仕事の調整しないとね。それから、二人で産婦人科にも行きなさい。暫くオフにしてあげるから。」
「ごめんねぇ………安倍ちゃん。仕事の調整、大変なのに。」
「いいのよ、おめでたいことなんだから。私も嬉しいわ。」
 本当に嬉しそうに微笑みかけてくれた。味方が居るのは嬉しい事だ。
「じゃあ、明日にでも病院行ってくるね。ヒロ、ついてきてくれる?」
「勿論だよ!!オレたちの赤ちゃんなんだもん。今日はオレの家に泊まろう。」
「うん。そうする。正直、まだ実感湧かなくて。」
 僕はそう言った。すると安部ちゃんが、
「博之、大介の体に負担かけるんじゃないわよ!」
 と言ってきた。僕は安部ちゃんが言ってる意味が解り赤面した。当のヒロは、涼しい顔をして、
「いくらのオレでもそんな事、するわけないじゃん。」
 と抗議した。僕は、アハハ、と笑い、ヒロと手を繋いで帰途に着いた。

  * * *

「浅倉さん、朝倉大介さん、福田博幸さん。診察室にどうぞ。」
 甲高いナースの声が僕達を呼ぶ。
 待合室には誰も居ない。目立つ僕たちだから、昨日安部ちゃんが知り合いのお医者さんに掛け合って、通常診察の時間より30分早く診察してくれる様とりはからってくれたのだ。
「「はい!!」」
 二人とも妙に張り切った返事。検査はもう済んでいる。
 診察室に入り椅子に座ると、気のよさそうなお医者さんが、
「おめでとうございます。妊娠12週目です。」
 と言ってくれた。隣のヒロを見たら、緊張でガチガチなんだもん。ヒロが緊張してどうするの?笑いが込み上げてくる。
「元々男性の体は子供を産む仕組みに出来てはいません。人類の進化というか………最近になり子宮を持って産まれる男性が増えてきました。出産は大変な苦痛を伴います。日常生活も大変ご苦労なさると思います。もし堕胎を希望するならば母体にさほど負担のかからない16週目までとなります。浅倉さん、福田さん、いかがなさいますか?」
「「勿論、産みます!!」」
 僕の声とヒロの声がハモった。目を合わせて笑い合う。お医者さんも嬉しそうに笑ってこう言った。
「男性同士ですと、社会的地位や世間体で、堕胎を希望される方も少なくありません。お二人の赤ちゃんは幸せですね。」
「「はい!!」」
 またハモった。後ろにいた看護婦さんが笑って、
「本当に愛し合ってらっしゃるんですね。」
 と言ってくれた。僕たち二人は顔を見合わせ笑いながら頷いた。自然に僕はお腹に手を当てていた。
「とうとうオレもパパかぁ〜!!」
 ヒロは、大きなその瞳を糸の様に細めて笑っている。
「もうヒロ、『おイタ』は出来ないね?」
「そっ……そんなのしてる訳無いじゃん!!そりゃあ………若い頃は………あぁ!!今はしてないの、大ちゃんが一番知ってるでしょ!?」
 そんな僕たちを見て、お医者さんも、看護婦さんも笑ってる。
 僕は、神様からの贈り物に感謝した。

  * * *

「うん、うん、妊娠12週目だって………。うん、ありがとう、安部ちゃん……迷惑かけちゃうけど………僕、産む事にしたよ。……うん、ありがとう……じゃあ、またね。」
 僕は自宅に戻り、真っ先に安部ちゃんに報告した。本当に心配してくれている彼女だから。それから、実家へ。反対されるかと思ったけれど、歳をとった両親の言葉は、孫が出来る事の喜びだった。隣でヒロが背中を抱いていてくれる。
 電話を切ると、ヒロが真面目な顔をして見つめてくる。
「……?……どうしたの?」
 両手をヒロの手で包まれた。真摯な瞳で覗き込まれる。
「大ちゃん……いや、大介、オレと結婚してくれますか?」
「それってプロポーズ?」
 思わず、聞いてしまった。
「それ以外になにがあるの?順番逆になっちゃったけど、大ちゃんオレと結婚してくれる?」
 子犬みたいな不安げな瞳で見つめてくるヒロ。………嬉しいに決まってるじゃない………。
「………うん。ありがとう。こちらこそよろしくお願いします。」
 ぺこり、と頭を下げる。こんな日が来るなんて思ってもいなかった。最近、法律が変わって、男性同士での結婚が認められる様になったとはいえ、まだまだ逆風も強いから。夢のまた夢だと思っていた。
「ありがとう!………愛してる、誰よりも、何よりも、大ちゃん………。」
「ヒロ………僕も………。」
 言葉の続きは、ヒロの柔らかい口唇で塞がれた。
「オレの両親に、会ってもらえるかな?大ちゃんの両親にもご挨拶したいし………。」
「勿論だよ。嬉しい………。」
「ファンの子たちにも報告しないとね。オレたちの赤ちゃんのこと。」
「うん。少しお休みを頂いちゃうからね?」
「幸せだね。」
「うん。幸せだね。」
 僕達は、見つめあって、微笑みあって、そして少しだけ泣いた。

  * * *

『今日のラジオのゲストはヒロです。今日はね、僕達のね、大切な報告があります。みんな祝福してくれると嬉しいんだけど………。僕のお腹には、ヒロの赤ちゃんがいます。』

『『僕たち、結婚します。僕たち、今、とても幸せです。』』


       《END》
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