access to ACCESS

□LYIN' EYES
1ページ/5ページ

オレはホテルの最上階のラウンジバーに、一人、カウンターのとまり木に座って居た。

さっき迄、恋人とダブルベッドのある部屋にいたが、彼女の我儘に、逆上し、酷く言い争いをして、「アタマきた!!冷やしてくる!!」と怒鳴りちらし、このラウンジに来た。

オレは、某ホストクラブではNo.1を張る人気ホストだ。その筋では有名でヘッドハンティングの話が有るのはハンパじゃあない。


ピアニストがグランドピアノで、素敵なジャズを弾いている。
その筋では、きっと有名なピアニストなのだろう。音がラウンジそのものに溶け込み、完璧だ。
栗色の髪の毛を揺らし、繊細な指で、音を奏でる。
しばし魅入ってると、彼と目があった。何故かドクンと心臓が高鳴った。

数曲を弾き終えた後、彼は40代半ばと思われる男性の元に戻り、何か、楽しそうに話をしている。
多分パトロンだろう。

オレはもう一度シャンパンを頼む。
今日は、やけには苦く感じる。
それに、彼の存在。男なのに華奢で、円らな瞳と綺麗なカーブを描く唇。
魅入るオレ。
どうかしてる。

彼はオレの存在に気付いたのか、ちらちらとオレを見つめている。

オレはわざと解るように彼の瞳とじゃれあう。

隣のパトロンが、気付いたのか、彼の肩に手を掛け、
『そろそろ帰ろうか。』
とテーブルから立とうとしていた。

オレはそのテーブルをバタンと叩き、彼の華奢な腕を、ぐっと引き寄せ、そのまま走りだした。

後ろの怒鳴り声なんて、気にしない。


彼は突然のことに驚きながら、素直に付いてくる。

『アイツは置いてきていいのか?見ず知らずのオトコに、無理矢理連れ去れて逃げないの?嫌がらないの?』
走りながら聞く。
『今夜だけでも、運命を信じてみたくなったから。と、言っておく。』

そのままエレベータでロビーに降り、オレの車に乗せる。

よく見ると、掴んでた手首が、アザになっている。
『大丈夫だよ、弾くのには支障がないから。』

『どうしてもオレは、今夜だけでも、君を奪いたかった。』
そう呟いた。
『笑えるか?』
彼に聞いた。
首を横にふった。
『ピアノを弾いてる時に、僕を見つめてたよね。』

『目があった時に、ドクン、としたんだよね・・・』
まさか、オレと彼と、同じ考えでいると思わなかった。

『オレも、・・・した。』
でも彼は、仕立てのいい上品なスーツで、背筋もしっかりして、いい所の育ちだって解る。

彼は、特製の鳥かごの中の綺麗な声で鳴く、大事に育てられた、小鳥の様だ。
それに比べ、オレは暗闇で妖しく光る鴉の様。キラキラと輝くモノを渇望する鴉。

まったく正反対の生物。

『あなたは・・・』
と、彼が口にした時、
『オレの名は、ヒロユキ、ヒロでいいよ。』
『じゃあ、ヒロ・・・さん。』
『呼び捨てで構わないよ。』
『・・・ヒロ、どうして僕を連れ去ったの?』
そう言われ、
『オレは、欲しいと思ったモノは何時でも手に入れてきた。』
と答えた。
『ピアノを弾いてる時、目があった時、今夜だけでも、キミを盗みだしたいと思ったんだ。』
彼は、
『あ、あの・・・僕は大介、ダイスケって呼んでください。』
『解った、ダイスケ。』
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ