*BLOG'S UP NOVEL*

□『赤い悪夢』
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 握られた刃(やいば)が、ギラリ、と光る。

―――――お願い、悪い夢なら、醒めて―――――。


 振り上げられたナイフが頬を掠(かす)める。

 頬に痛みを感じて、指で撫でると、ぬるり、とした感触。
 やっぱり夢じゃない。夢なんかじゃない。

「………ヒロを愛(あい)しすぎて、愛(いと)しすぎて、壊れてゆく僕を許して………………。」


 狂気を孕んだ悲しくて、切ない声。許しを懇願する、とても苦しい声。
 それは愛(いと)しい人の、声。

「誰かに微笑むヒロを見たくない。誰かに優しくするヒロを見たくない。壊れていく僕から離れていくヒロを見たくない…………っ!!」

 血が滲むような泣き声で、大ちゃんがそう言った。

「オレは、どんな大ちゃんだって愛してる………!壊れてたって愛は変わらない………!!」

 力の限りを込めて大ちゃんの叫びを受けとめる。

「ヒロ………お願い。僕だけのヒロになって………!!」

 暗闇の中、妖しく光るナイフと共にオレへと駆け寄る大ちゃん。

 ―――――君の手で、死ぬのなら、本望、です。

 そう思い目を閉じて、抱き締める構えをしながら、ナイフが突き立てられるのを、両手を広げて待つ。

「!!」

 ドスン、という衝撃。
 大ちゃんを思い切り抱き締める。
 なのに、何処にも痛みを感じない。

「!?」

 うっ、と言う呻(うめ)き声で、崩折(くずお)れたのは、大ちゃんの方だった。

「………ごめん、………ごめんね、……ヒロ……。」

「………何でっ!?」

 ぶるぶると震えている大ちゃんの体。息が上がっている。
 でもすぐに漏れる息は小さくなって…………。


「愛………して…る、……ヒロ……。」

「何で?何でだよ!?」
 先程まで光っていた刄は、大ちゃんの体にすっぽりと納まっている。両手にドロリ、とする血の感触。
「………醜く壊れていく僕を………ヒロに見られる………くらいな……ら、ヒロの、腕の中で死………にたいの………。」


「そんなの………!!」

 でも、大ちゃんのそんな気持ち、馬鹿らしいなんて言えないよ?おかしいなんて言えないよ?
 だって、誰だって一番愛おしい存在は、独り占めしたいものだから………。


 でも。
 少しずつ硬直してゆく体を撫でながら、
「バッカだなぁ………大ちゃん。オレは………大ちゃんにゾッコンなのに………見て解るでしょう?」
 と優しく耳元で囁いた。

「………本当は、死にたく……ない……よ。バ…カ…だね………僕………。」
 大ちゃんの声がちいちゃくなる。

「……で…も、これで………ヒロは、僕の………もの………。うれし…い………。」


「バッカ!!死ぬなよ!?オレを置いてくの……?何時までも一緒って、約束したじゃん!!」


 涙が自然に溢れだす。何でだよ………なんで大ちゃんの方が死んじゃうんだよ?

「………ぼくはえいえん………にひろのもの………。」


 大ちゃんは、そう呟くように言うと、事切(ことき)れた。
 がくり、と落ちる大ちゃんの腕。

「………バ…カ……。」
 大ちゃんの胸に納まっているナイフを抜くと大量の血液の溢れだした。血のシャワーがオレを濡らす。
 頬を伝うものが、涙なのか血なのか、解らない。


 引き抜いたナイフを両手に持ち、自分へと向けた。
 目をつぶる。

………。
………………。
………………………。


 ごめんね。
 後を追えない、オレを許して?


「もし、オレが貴方の後を追ったのなら、誰が貴方を一番に愛するの………?」

 悲しいよ。
 とても、悲しいよ。

 オレは大ちゃんの心の闇に気付いてあげられなかった。

 オレは愛情と後悔と共にずっと忘れずに、生きていくのだろう………。





 どれほど、時が経ったのか。
 抱き締めていた大ちゃんの体は、冷たくなっていて。
 オレの頬や髪にまで飛び散った血糊は固くこびり付いている。

 赤い悪夢。

「………ずっとずっと。死ぬまで、愛し続けるよ………。」


 悪い夢でも。
 どうか、醒めないで。

 貴方に。
 永遠の愛を、誓います。


       《了》

*あとがき*

ブラッキー月影(笑)になるきっかけとなった小説です。


それまでの、『甘々いちゃこら』accessサイトから、『シリアス』『狂気』『病んでる』『ダーク』なaccessサイトを目指す様になった、方向転換的記念小説です。

このお話はヒロSIDEのお話もあります。合わせて読んで頂けると幸いです。

感想など頂けると、とても嬉しいです。

      月影咲夜 拝

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