access to ACCESS vol.2

□君のとなりで眠らせて【改訂版】
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『高速に乗って二人でドライブ』

 ディズニーランドへ向かう途中だったら、どんなに、楽しかったことだろうか。



 今、オレたち二人は、高速で安部マネージャーやスタッフたちと、カーチェイスしている…………。

  * * *

 事の発端は、昨日の夕方の事だった。その日はオレと大ちゃんは、別々の仕事をしてる筈なのに、携帯に安部ちゃんからの着信があった。メールではなく直接電話で。
 何だか胸騒ぎがする。安部マネージャーから直接電話なんて殆ど無い事だから。………悪い予感。慌てて通話ボタンを押す。
「………もしもし?」
 喉をゴクリと鳴らす。その返事を待たずに伝えられた言葉は、非情なものだった。
「………ヒロ、あんた、すっぱぬかれたわよ。スホーツ新聞に………。あんなに気を付けて、て言ってたじゃない!!早くこっちに来なさい!!」
 頭がグラリと揺れる。
 な…なんで………?
 少し前に、大ちゃんと夜を過ごした帰りに、少しドアを開けてキスをしたことがある………それなのか?

 オレのマネージャーの林さんには、緊急時態だと知らせて、安部女史の所へ行かなくてはならないと伝え、頼み込み仕事を早上がりした。『緊急事態』が何の事かしつこく聞かれたが言える筈がなかった。しかし、いずれ安部ちゃんの口から林さんに何が起きたのか伝えられる日が来るだろう。



 でもまさか、これが最期になるなんて………。



 事務所にに入ると大ちゃんが、顔面蒼白な顔で、今にも泣きだしそうな顔をしていた。机の上で組まれた手が、ガタガタと震えている。
「………だいちゃん………。」
 と、オレは声をかけたが、何を言っていいか解らず言葉に詰まった。そこに、安部マネージャーが入ってきた。そして、ある紙の束を見せながら、
「………ほら、これが、○●スポーツからの早刷よ。」
 流石に、新聞の一面ではないが、芸能欄の中の1ぺージの半分を使ってその記事は書かれていた。
『同性愛発覚!?キーボードユニットaccess』との文字とカラー写真で、キスをしている現場が写っていた。
「あなたたち2人の責任でもあるけど、私の責任が一番大きいわね。あなたたちの事を知っていて、ちゃんと管理しないでそのままにしてたんだもの。」
 淡々とした安部ちゃんの声に、反対に恐ろしさを感じて背中に汗が伝った。言葉が出ない。
「………もういいわ。起きてしまったことは仕方がない。そうね、accessは解散の方向で動くわ。いいわね、大介。それと、博之とも別れなさい。」
 オレが今ここに居る存在を、無視して話が進んでいく。
 大ちゃんの白い肌がさらに青ざめ、安部ちゃんの顔を見上げる。
「い…嫌だ!ヒロと別れるなんて出来ない………僕はヒロを愛してるんだ………!!」
 と悲痛な叫び声で抗議する。安部ちゃんは非情にも淡々とした態度のままで、
「もう、決めた事なのよ。」
 と、止(とど)めの台詞を吐いた。その言葉に大ちゃんは、
「嫌だったら嫌だっ!!嫌だって言ってるだろっ!!」
 と取り乱して怒鳴った。その様子を冷徹ともとれる冷めた瞳で見下ろす安部マネージャーは、
「まぁまぁ、落ち着いて………大介。」
 と、今度は大ちゃんの肩に、腫れ物を触るように優しく触れようとする。大ちゃんは壊れた玩具(オモチャ)のように必死に腕を回しながら必死に拒絶した。
 しょうがないわねぇ………と安部ちゃんはポツリと呟き、
「大介、博之、今日は二人とも帰りなさい。明日、また集まって昼からミーティングにしましょう。落ち着いて未来のことを考えなさい?何とか気持ちを整理していろんな事を決めましょう。」
 と言った。しかし、それは一時凌ぎの言葉であり、安部ちゃんの心の中はオレたち二人を別れさせるようにと決めているのが、オレには解った。
 オレは、大ちゃんと一緒に帰ろうとする。動揺し、興奮している大ちゃんを一人では帰せられない。
 そう思い、大ちゃんに声をかけようとした時、安部ちゃんから、
「博之、あなたは一人で帰りなさい。今、二人で動くのは危険だわ。それに、大介は興奮してるし、落ち着くまで暫くここに居させる。大介はタクシーで帰らせるわ。」
 と言われてしまった。
 結局オレたち二人はバラバラに帰されることになってしまった。
 オレは大ちゃんに目配せをする。自宅に着いたら、オレの家までくるようにと。充分伝わったに違いない。それ程、オレたちは恋人として、長い時間を過ごしてきたのだから。

 そしてオレは、自宅へ帰る途中、古びた薄暗い裏通りを寄り道をする。とある店で、お守り代わりのある物を買っておいた。

  * * *

 それにしても、大ちゃん来るの遅いな………。まだ安部マネージャーに捕まっていて、説得されているのだろうか。スタジオを後にして五時間も経っている。
 ………と思っていたら、玄関の方で、ガチャリと鍵が開く音がした。大ちゃんが合鍵でドアを開けて、オレの居るリビングまで来た。顔には憔悴の色が浮かんでいる。
「………早く逢いたかった、ヒロ。」
 そう言って大ちゃんはオレの腕に倒れこんだ。
「………もう、困っちゃって………。あれから何時間か安部ちゃんに説得されて………。で、ようやく帰れると思ってタクシーに乗ったら、ビジネスホテルに予約が取られてあったの。」
 オレは、明るい金髪を指で鋤(すき)ながら、ふわりと大ちゃんを抱き締め、苺の様に紅い口唇に接吻(くちづ)ける。大ちゃんもようやく安心したようだ。
「もう、逢えなくなっちゃうかと思ってた………。よくホテルから逃げ出せたね?」
 オレはそう言いながら、再び大ちゃんの体を優しく抱き締めた。

  * * *

 もしも、accessが解散したら。
 もしも、大ちゃんと別れることになったら。
 もう、二度とは逢えなくなるだろう。
 そして。
 大ちゃんは、今まで通りとはいかなくても、プロデュースや打ち込みの仕事やらで、これから先も仕事はやっていけるのだろう。
 ………オレは、社長の圧力やなにかで、多分仕事を確実に干される事になるのは解り切ってることだ。
 大ちゃんを不安にさせない為にもこの事は口外できない。

  * * *

 ………大介。やっぱりホテルを抜け出して、博之の家へ行ったわね………。
 でも、携帯のGPSがあるから、あなたがそれに気付かない限り、私から逃れる事は、出来無いわよ………。
 そう、大介は私のモノよ。どれだけ長い間、マネージャーをしてたと思うの?
 安部マネージャーは、悲しみとも、束縛心ともとれる複雑な笑みを浮かべていた。

  * * *

「ねぇ、大ちゃん。今日は、一緒にお風呂入ろうか?」
 冗談とも取れる様に、少しおどけて、大ちゃんに言ってみる。
 何時もなら、恥ずかしがって、嫌がる大ちゃんだけれども、
「………それも、いいかもね………。」
 と柔らかく微笑んでそう言った。
 その言葉から、もう、オレたちの生活は、非日常なってしまったんだと痛感する。
 一日過ごした服を脱ぎ捨てると、浴室へと向かった。お互い洗いっこをしながらシャワーを浴びる。束の間の愛しい恋人の時間。
 干したての、太陽の匂いが残るバスローブに、オレたちは身を包む。
 ソファに腰掛け、二人、震える手を繋いで、話し合う。
 取り敢えず、明日のミーティングはバックレ。朝早く最低限の荷物だけ持ち、何処か遠くへ行こう。そして素敵なホテルのスイートにでも泊まろう。そして二人で夜景を眺めよう。それから………。
 そんな風に色々話し合って、二人、ベッドに倒れこんだ。
 繋いだ手なら、もう離さない。
 そうしてどちらからともなく、キスを繰り返し、何時しか眠りへと堕ちていった。
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