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□無邪気に笑う堕天使
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『クリスマスには予定が無いよ』


 約束通り、クルージングパーティで、ファンの子たちの前でそう言ったよ。


 ファンのみんなにも、大ちゃんが朝言ったみたいに、『嘘つき』って冷やかされたけれども、ね。


 今年はお互いクリスマスに仕事が無いのに、大ちゃんは今日まで『クリスマスには逢いたい』なんて、言ってはくれなかった。


 本当に1人で過ごすクリスマスになっちゃうのかな?


 と、携帯電話と睨めっこしながら、大ちゃんからの連絡を待っている。


 いつまで経っても、オレの携帯電話は、うんともすんとも言わない。


――――――逢いたい、なんて思ってるのは、オレだけ?


 自分から連絡してもいいんだけど、記念日には何時もオレから、なんて、少し淋しいよ。


 天の邪鬼な君のコトだから、オレに『逢いたい』なんて、素直に連絡してこれないのかな。


 オレの可愛い堕天使。


 『クリスマスに一人なんて、淋しいよぉ、逢いたい、ヒロ。』なんて口にさせたいオレは意地悪なのか?


 恋をしたら山火事状態で突っ走っちゃうオレだけど、少し意地悪をしたくなる日もあるんだよ。


  * * *


 なんて、あーだこーだ、意地張って連絡を待っていたら、もう午後6時をとうに過ぎてしまった。


 これは、ヤバすぎる。大ちゃん欠乏症なオレ。


 しょうがないか。


 なんとなく、スタジオなんかに車を走らせる。


 君が居るような気がして。


  * * *


「あら?ヒロ、珍しいわね。今日はオフなんでしょ?」


 と不思議そうな顔をした安部女史に言われる。


「………うん。まぁね。」

 とお茶を濁すオレ。


「………ふ〜ん。さては、カノジョにフラれたのかしら?あなた、最近忙しかったものね。」


 ニヤニヤしながら、安部女史はオレにそう言ってきた。


「オレんトコは、そんなコトで壊れる愛じゃないよ、安部ちゃん。」


 そう、安部女史に自慢げに言い放つ。本当は今日だって連絡がなくて、ドキドキものなんだけど、ね。


 オレは、落ち着き無く、キョロキョロと辺りを見回す。


「誰か探してるの?」


 と怪訝そうに、安部女史は聞いてきた。


「………いや、そうゆう訳じゃないけど。まぁいいや、オレ、帰るわ。」


 来たばっかりなのに、と不思議そうな顔をする安部女史を横目に、スタジオの一室から出てゆく。


 もしかしたら。


 ふと思い返して、スタジオの2階にある、とある部屋へと向かった。


 コン。………コン。コン。


 何時もの合図でドアをノックする。


 何も返答はない。


 ………やっぱり、違うか。安部女史も何も言ってなかったし。


 そこは、大ちゃんが休憩室兼喫煙所として使ってる部屋だ。


 帰ろうとしたけれども、一応ドアノブに手をかけて回す。


――――ガチャッ。


 扉が開いた。


 オレがそこで見たものは………。


 シンセや器材に埋もれて眠る大ちゃんだった。


 起こそうか、そのまま帰ろうか迷ったけれど。


「………大ちゃん??」


 と、そおっと声を掛けてみた。


「………んっ、んん……。ヒロ………?」


 むくり、と起き上がってこちらを向いた。


「………ヒロ、遅いよ?やっと見つけてくれた。」


 と、寝呆け眼(まなこ)で無邪気に笑うオレの堕天使。


「………遅いって、………オレたちちゃんと約束してなかったじゃん?それに連絡もくれないし。」


 と、オレが言うと。


「ちゃんと、メールしたよ?…………iPhoneに。」


 と、大ちゃんは更に楽しそうに笑った。


 えっ………?iPhone?


オレが大ちゃんと同じiPhoneを買ってから、既に半分放置気味で、家に置きっぱなしだったりするのを知ってる癖に。


「オレのiPhoneの携帯率の少なさを知ってる癖に〜!!」


 オレは大ちゃんに近付き抗議する。


 大ちゃんはといえば、ことり、と小首を傾(かし)いでこちらを向いてニッコリと、


「折角同じiPhone買ったんだから、活用しないと、ね?ヒロ。」


 可愛く笑ってそう言った。


「………………はい………。」


 オレは、肩をガックリと落とし返事をして、ジャケットに入れっぱなしだったiPhoneを取り出す。


 仕事中にならないようにとサイレントに設定したままだった。


 液晶には確かにメール受信のアイコンが光ってる。


 メアドを知ってるのは大ちゃんと、数人の友人だけ。しかも友人は、オレが余りにも放置しているのを知っているから、こっちにメールするのは大ちゃん位なものだ。


 メールを開くと、数時間前にうたれた、


『クリスマスに一人じゃ淋しいよ。ヒロ、僕を探して逢いに来て?』


 の文字が動く絵文字とともに踊っている。


 してやられたなぁ………。


 このメールを打ってからずっとここで待ってたなんて、可愛くて可愛くて仕方ないじゃないか。


「ごめんね、大ちゃん。遅くなって。これからちゃんと、iPhoneもチェックするから、許して、ね?」


「………んー、イヤっ!!」


 ぷくっと頬を膨らませる大ちゃん。


「何でもするから。許して、ね?」


 大ちゃんは子供がいやいやをする様な仕草をしてから、外方(そっぽ)を向く。


 オレは大ちゃんに更に近づき外方を向いた大ちゃんの顎を、くいっ、っと指で持ち上げてキスをした。


「おにく、食べにいこうか?」


 と、彼が一番弱い言葉を出した。


 まさか、こんな子供騙し、通じないよなー。と思ったら。


「行く!行く行くっ!!ヒロの奢りだからね?沢山食べちゃうんだからっ!!!」


 とニコニコ笑って抱きついてきた。


 作戦成功―――――って思ったら。


 抱きついて、耳元で、


「―――――って、今回はおにくに免じて許してあげる!」


 と囁かれた。


 やっぱり、してやられちゃった―――――。


 天然でオレを振り回す君は、小悪魔、と言うより。


 大ちゃんは、愛しい堕天使。


 無邪気に笑うオレだけの堕天使。



      《おわり》


*あとがき*


イブには間に合いませんでした(笑)

でもそのおかげで大ちゃんのツイッターでの、『おにく』のくだりが出てきました(爆)

ツイッターの、大ちゃんの間がある時間が気になってしょうがないです(笑)単に仕事か寝ているんでしょうけど。ヒロと一緒ならいいのに、とかなりの腐人間(爆)

『無邪気に笑う堕天使』とは、敬愛する及川光博さんの『SONG FOR YOU』と言う歌のワンフレーズです。

大ちゃんは『小悪魔』と、よく言われますが、計算している部分もあるけど、意外と天然で抜けているので『無邪気な堕天使』の方が似合うんじゃないかな、と思っております。

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