access to ACCESS vol.2

□アマノジャク
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「もう、ヒロなんか、女の子と付き合ったらいいじゃん!」
 何でなの?
 今日は久々のデートなのに。
 こっち見てよ。
 僕を見てよ。
 すれ違い、綺麗なおねえちゃんを目で追ってるの、知ってるよ?
 隣に僕が居るじゃない。
 『だから、僕を見てよ?』
 その言葉が素直に言えなくて。
「どうしたの?急に?大ちゃん?」
 焦るヒロ。訳が解らないって顔してる。
「もう、ヒロなんか知らないっ!!」
 天邪鬼(あまのじゃく)な僕は、素直になれなくて。
 訳も解らず、ごめんねを連発するヒロを振りほどいて帰ってきた。

  * * *

 あぁ、また喧嘩になっちゃった。多分ヒロは、条件反射的に綺麗な女の子を目で追っちゃうだけなんだろうけど。
 僕は、それが解っているけど、許せなくて。
 素直に言えなくて。
 素直に甘えられなくて。
 アマノジャク。
 『こっちむいてよ、ねぇ?』
 なんて、甘えられなくて。
 『僕のコト好き?』
 なんて、聞けなくて。
 『ヒロ、大好き。』
 なんて、言えなくて。

  * * *

 ヒロから逃げてきた後、何だか落ち着かなくて、オフなのにスタジオに来てしまった。ついつい、いつも使っている休憩室に向かう。
 アベちゃんが、僕を見て、何か言いたそうな顔をしていたけど、遠慮がちに『お疲れ様』って言っただけだった。きっと今の僕の顔は凄く落ち込んでいる様に見えたんだろうな。
 アベちゃんに引け目を感じながらも、休憩室に入ると、ガチャリ、と鍵を締めて窓際の椅子に座る。休憩室でも、思いついた時に打ち込める様にとシンセが一台置いてある。
 手持ち無沙汰な僕は、少しだけそれをいじって、溜め息を吐(つ)いた。
 何で帰って来ちゃったんだろ………。
 ヒロは、謝ってくれていたのに。
 折角楽しみにしていた2人一緒のオフだった。
 今、ヒロは何をしているんだろう。
 多分僕の携帯には、ヒロの着信の記録とメールが入っているだろう………。
 でも、僕は、携帯の電源を切っている。
 僕には、勿体ないくらい優しい恋人。なのに、素直になれなくて、思ってることの反対ばかりしてしまう………。
「はあぁ………。」
 溜め息が、また一つ。
 ひんやりとしたシンセに頬をあてる。少し、いや、凄く後悔している。
 機械の冷たさが心地よい。何だか、疲れて、眠くなってきたよ………。

  * * *

……………………。

……………………。

……………………。

 誰かが遠くで呼んでいる。
 おかしいな?誰も居ないはずなのに。

………………………。

………………………。

………………………。

ソンナニ、素直ニナレナイ、おまえナラ、ソノ名ノ通リ、『アマノジャク』ニシテヤロウ………。

  * * *

 ドンドンと扉を叩く音で、目を覚ました。どうやら眠ってしまったらしい。窓を見ると夕陽が見える。随分と時間が経っていたみたいだ。多分アベちゃんが、心配して迎えに来てくれたのだろう。
「今、開けるから。」
 そう言って、シンセから体を起こすと、ドアに向かい、鍵を開けた。
「大介、どうしたの?」
 アベちゃんは、とっても心配そうに聞いてきた。
「………なんでもないよ?」
 僕は、心配させないように笑顔を作ってそう言った。
 アベちゃんは、言ってもいいものかと、一瞬迷った顔をして、
「………でも、大介、何かあるとオフでもここに来るじゃない?」
 と僕に声を掛けた。
 ヒロと喧嘩した、なんて、とても言えない。とにかく安心させようと口を開いたら………。
「何でもないって言ってるだろ!?心配なんか迷惑なんだよ!!」
 !!
―――何でもないよ、安心して、って言うつもりだったのに、心とは裏腹な言葉が出てきた。
 なんで!?
 でも言葉が止まらない。
「アベちゃんみたいなお節介焼きの、無能なマネージャーなんか迷惑なんだよ!!」
―――心配してくれてありがとう、有難いマネージャーだよ、って言いたいのに!!
 心とは裏腹な言葉が口に付く。アベちゃんは僕の暴言に怒るというより、心底傷ついた顔をしている。
 ふと、さっき見た夢を思い出す。

―――『アマノジャク』ニシテヤロウ―――。

 夢のせい?まさか。でも心とは逆な言葉が口に付く状態では、信じるしかなかった。これ以上ここに居たら、もっとアベちゃんを傷つける!!
 取り敢えず、一刻も早くここから立ち去らなきゃ………。
「僕、帰るっ!!」
 これ以上暴言を吐かないように、最低限の言葉だけを言って逃げるようにスタジオを後にした………。

  * * *

 どうしよう………。
 アベちゃんを傷つけてしまった。
 僕は、自宅に着いて、着替えもせずに、ベッドに潜り込んだ。気分が悪い。
 ………素直な言葉が出ない。
 どうしよう。明日、accessの打ち合わせがあると言うのに………。
 アベちゃんとも、そしてもちろんヒロとも顔を合わせる。
 ………行きたくない。
 信じられないけど、さっき見た夢が本当なら、明日も同じ状態が続く事になるはず。いや、このまま眠って朝になったら、何事もなかったように元に戻っているかもしれないし………。
 そうしたら、朝一番に、ヒロに謝ろう。そして、アベちゃんにも。
 色んな事をぐるぐると考えているとそのうちに、睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった―――――。
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