access to ACCESS vol.2

□恋の華に堕ちる
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 はじまりは 一本の
デモCD。

「はじめまして。貴水博之です。」

「はじめまして。浅倉大介です。」

 差し出されたすらりとしたしなやかな手を握り、彼の顔を見る。写真で見てた時より、イケメンだなぁ………。

  * * *

―――最初に恋をしたのは声。

  * * *

 ベンチに腰掛ける僕。
『浅倉くん、いい子がいるよ?』

 ソロCDのヴォーカルが決まらず悩んでいる僕に、とある音楽関係者からデモCDを渡された。

「『いい子がいるよ』って、お姉ちゃんのいるお店じゃないんだから………。」
 僕は、そう呟きながらクスリと笑った。持っていた、CDウォークマンで、そのデモCDを聴く。

――――何、これ?

――――こんな声の持ち主なんて居るの?

 聴くたびに早くなる鼓動。きっと、この時にはもう、ヒロの声に恋に堕ちていた。

  * * *

「貴水くん、この曲に合わせて歌ってみて?」
 促されるまま、ヒロはヴォーカルブースへ入り、歌いだした。
 ヘッドホンから流れるヒロの声は、デモを聴くより魅力的で。

「はい、OKです!!」

 僕は少し考えて、マネージャーを呼んだ。
「僕、貴水くんと、ユニットを組みたいんだけど………。無理かな?」
 おずおずと聞いてみる。
「確かに、彼の声って、大介のシンセの音に、相性バッチリだものね。………いいわ、社長に聴いてみる。」

  * * *

 こうして、僕達はaccessを結成し、狂気の様な早さでスターダムへと上り詰めていった。

 ヒロと過ごす時間は楽しくて、彼の意外な優しさやポジティブさに、感動すら覚えた。自分がヒロによって変えられていく感覚はとても嬉しくて。

 でも、それが『恋』だと気付くのは余りにも遅すぎた。

 僕がソロをやるにあたって、ヒロがaccessを『卒業』する形をとり、いわゆる『沈黙』をした。
 僕は沢山の仕事をこなした。隣にヒロが居なくなってしまった時間が、淋しくなかったと言えば嘘になる。後悔した日も泣いた日も、沢山あった。
 でも、定期的に連絡を取り合っていたし、まだこれが『恋』と自覚するまでには到らなかった。

 そして、7年の月日が過ぎて、僕たちは再びaccessを復活させる日が来た。
 再び、ヒロの為に曲を作り、ヒロの為に曲を弾いて、ヒロと同じステージに立ち、―――――それが、僕の気持ちを変えた。
 ………ヒロと居る時間がこんなにも幸せな時間だったとは。
 ………ヒロと一緒に居る事がこんなにも自分を変えていたとは。


そう。
僕は、ヒロに。
恋に堕ちていたのだ。

 そう気が付いたら、求める気持ちが加速度を増すのに時間がかからなかった。
 喉元まで、出かかって、それを飲み込む言葉。

『僕は、貴方が、好きです。』

 言える訳なかった。

 同性からの告白なんて、きっと気持ち悪いと思う。僕だって、自分の気持ちに気付かなければ、同性からの告白なんて、顔を背けていただろう。その時、僕だって付き合ってたカノジョだっていたのだから。
 それに、ヒロには、女の子が絶えたことが無かった。真剣に恋をしていたのかは解らなかったけど、長く続いて一年。早いと3ヶ月のサイクルで、カノジョが変わっていた。それでも独り身でいることは殆ど無かった。

  * * *

 恋の華は、叶わぬ程、悲しいくらいに熱を孕む。
 まるで春を待ちわびる蕾のように。

  * * *

 そんな、誰にも打ち明けられない秘密を持って、十数年が経った。
 ヒロに恋心を抱きながらも、僕はカノジョを作り、付き合うことがしばしばあった。僕だって男だ。人恋しさが勝る事もある。
 決して、付き合った女の子達をヒロの身代わりに好きになる事は無かった。ちゃんと好意も抱いていたけれども………、結局最後は淋しさの埋め合わせとなり、自然と関係が離れていった。その度に、ヒロが大好きだと気付かされる。
 そして何より辛かったのは、ヒロがその時付き合っている女の子の話を聞くことだった。
 何故、僕は男なんだろう。『オンナノコ』と言うだけで、ヒロと付き合える資格のあることが何よりも羨ましかった。嫉妬をする前に諦めるしかない僕には。
 なのに。
 なのに、ある日パタリと、ヒロのカノジョが途切れる日が来た。ここ、数ヶ月、女性の影が無い。
 いち早く気付いたのは、流石女性のアベちゃんだった。
「ヒロ、あんた、最近オンナの影が無いわね?」
 accessの夏のライヴの為の打ち合せ中に、不意にアベちゃんがヒロに聞いた。
 ヒロは、
「オレも歳とった証拠だよ〜。何ならアベちゃん、オレと付き合う?」
 なんて、あっけらかんと笑いながら誤魔化していた。
「あたしには旦那が居るから、間に合ってるわよ。それに、あんたがカレシなんて考えたらゾッとするわ。」
 と、アベちゃんも冗談で返す。
 そんな些細な冗談なのに、ヒロに『付き合う?』なんて聞いてもらえるアベちゃんがとても羨ましいと思ってしまう。
「それじゃあ、大ちゃん、オレと付き合う?」
 ふと、話の矛先が僕にむいた。
「………えっ………。」
 僕は突然のことで、返す言葉が出てこない。冗談だって解っていても。
 優しく微笑んで僕を見るヒロの瞳を、見返す事しか出来なかった。
「ヒロ、大介を苛めないの!!この子、意外と純なんだから。」
 と、タイミングよく、アベちゃんからの助け船。………よかった。変な空気になる前に助けてくれて。
 そして、その話は何もなかったかの様に、再び打ち合わせの話に戻った。

  * * *
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