N O V E L 【コードギアス】
□痛いほど美しい君の愛に。
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「行こうか」
今にもスキップでもしながら歩きだしそうな栗毛にふと心を溶解させるのであった。
*
クリスマスまでまだ二週間以上あるにもかかわらず、至る所電飾で彩られ、赤と緑のクリスマスカラーが投射される。すれ違う人もどこかふわふわと楽しそうで、クリスマスへの雰囲気を存分に盛り上げている。それにしても寒い、とルルーシュは手袋を忘れてきたことを後悔し、赤みを帯びている自分の両手を擦り合わせ、息を吐きかける。その時にも目に入るのは、スザクと同じ場所に着けているシルバーリングで、いやが上にも先ほどのスザクの表情を思い出させる。一人、そんなことを考えてはほんのりと頬を染めていると、
「寒い?手袋貸してあげる」
とスザクの声が降り掛かる。さっきからスザク自身も寒そうに手を合わせたり、コートのポケットに手を突っ込んでみたりと忙しなかったのに、とルルーシュは不思議そうな顔をする。
「お前も寒そうじゃないか。お前の手袋なんだからお前がしろ」
前を見据えたままそうスザクに伝えると、再び表情を崩しコートのポケットの中から毛糸の手袋を取出して、はい、と目の前に差し出してくる。いらない、という意思表示に手をコートのポケットへと入れるが、良いから、としつこく眼前へちらつかせるので、礼代わりにふん、と鼻で笑いながらそれをひったくった。するとそれは右手のみで、ルルーシュはきっと隣を上機嫌で歩く男を見遣る。鋭利なアメジストに気付いたスザクは、笑みを湛えたまま手袋に包まれた自身の左手を挙げてみせた。
「そんな中途半端に寄越すならいらん。返す」
一度履いた手袋を外そうとするルルーシュに、慌てたようにその左手を捕ると繋いだままスザクのコートのポケットへと入れた。
「こうしたらどっちもあったかいでしょ?」
柔和に笑いながら言うスザクに唖然としていると、ルルーシュの頬へ血が集まるのがわかる。うるさい馬鹿、と悪態をついてはみるがスザクと手を繋ぐのは嬉しくないわけではない。ただ、公衆の面前という理性や、単に手を繋ぐことへの恥ずかしさが頭をもたげてくるわけで。
「コートで隠れてわかんないよ。ルルーシュ可愛いし」
あっけらかんとルルーシュが手を解きたくなる原因を作りながら言うスザクに軽く肘を入れつつ嗜める。可愛いは余計だ、とルルーシュの不満そうな声が漏れるがスザクはお構いなしに笑顔を浮かべる。
「それに今日くらい、ね」
とても嬉しそうに言うスザクに内心、何が今日くらいねだ、とひとりごちる。人前ではくっつくなと口が酸っぱくなる程言い続けているのに聞かないスザクが思い出されて、ルルーシュはため息を吐く。しかしそれでも楽しそうに鼻歌を歌いながら歩を進めるスザクに、身体がずれて繋いだ手が周りから見えぬよう、しっかりと着いていく。冷たかった両手が暖かくなり、ルルーシュはふと息をもらした。
*
「着いたよ!」
最近ナナリーがルルーシュから編み物を習い、見えないながらもみるみる内に上達していることを嬉々として話している最中に、スザクの大声が腰を折る。大きなショッピングモールの前でそう宣言するスザクからルルーシュは自然に手を離した。そうだね、と寂しそうな声が聞こえた。
店内は例の如くクリスマス一色で、早くもクリスマスセールとのぼりが踊る。
「何を買いに来たんだ?」
ルルーシュは店内の人の熱気にマフラーを外しながら聞く。鞄をごそごそと漁り、小さな紙切れを取り出しルルーシュに笑顔を向ける。
「クリスマス用品を買おうと思って。ルルーシュと過ごしたいから…あっもちろんナナリーにも楽しんでもらいたいし」
真っ直ぐな翡翠に見つめられ、思わず視線を逸らすルルーシュの頬が色付いているのは、外にいたせいかスザクのせいか。くすり、とスザクの吐息が零れる。
「安月給の下級軍人が何を言っているんだ」
そこを言われると痛いな、と苦く笑うスザクにルルーシュは意を決したように口を動かす。
「おっ俺はお前がいてくれれば…それで、いい」
語尾に行くほど細くなり消えてしまった声に、スザクは目を瞠る。耳まで赤く染めながら唇を噛んでスザクの反応を窺っているルルーシュを抱き締めたい衝動に駆られるが、ルルーシュが怒るのは目に見えているのでスザクはどうにか自制した。
「ルルーシュ…嬉しい…」
馬鹿が、とルルーシュの声がするがその頬は桜色に染まったまま。
「そりゃどうも」
不遜なルルーシュの声は雑踏とスザクの笑顔に吸収された。それと、とスザクが言葉を継ぎ、何だ、とルルーシュが応答する。
「えっと…一応これって、デート、なんだよね?」
突然もじもじと翡翠を泳がせながら呟きだしたスザクに、ルルーシュは頬を染める。スザクの様子にむず痒さを感じ、ルルーシュも調子を狂わされる。
「そんなこと一々確認するな!馬鹿!本当にお前空気読まないな」
つん、と逸らされた頬を色付かせた白磁のような顔と、ふにゃりと崩された褐色の顔に柔らかな空気が纏われる。行こう、と歩きだしたスザクの横にルルーシュは足を進めた。