N O V E L 【コードギアス】

□トリック・オア・トリート!
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香ばしい香りが台所を満たす。漂うその香りは、カボチャの甘さを載せている。台所の片隅に新聞紙を幾枚か広げ、その上に座り込みながら、せっせと小さな身体で自分と同じくらい大きなカボチャをくりぬく。何分、体力仕事は好きではないし、体力自体あるほうではないので、開始早々細い腕が悲鳴をあげる。ふぅ、とため息を一つ零しながら手の甲で額に滲む汗を拭った。

そう、何を隠そう今日はハロウィン。

誰もいない家の中で無心で作業に勤しむ黒髪の少年は、寧ろ一番行事に関心がないかもしれない。しかし、愛しい妹がハロウィンパーティーを楽しみに、その飾りを買いに行ったことを考えると張り切らずにはいられない。

――ナナリーのためだ…

手を休めた途端くるくるな癖毛の、体力だけが取り柄の男の顔が脳裡をよぎる。ほたるを見せられた時以来、何か歯車がずれたかのように、あの栗色の癖毛を意識してしまう。今日はナナリーに付き添わせているため、家の中は静まり返っているし、加えてナナリーを安全に行き来させることができるので一石二鳥だ、と自分を納得させる。しかし、と眼前に憎々しげに転がるオレンジ色のカボチャを睨む。まるで嘲笑うかのように減らない体積に、そろそろうんざりしていた。もちろんナナリーの喜ぶ顔に勝るものはないが、何分己の体力を勘案すると忍びないものがある。

「こういう時にスザクがいればな、なんてな」

段々と耳に痛くなってきた静寂を打ち破るようにひとりごちる。決して寂しいわけではない、と自分に言い聞かせながら。

「何だルルーシュまだそれしか進んでないのか?」

突如背後から振り掛けられた聞き慣れた声にびくん、と体を震わせ、ほわぁああと間抜けな悲鳴をあげる。ぬっと出てきた顔は肩に載せられ、癖毛が頬をくすぐってくる。去年の今日なら歯牙にもかけず引き剥がし、軽くあしらっていただろう。しかし、そうさせない何かが今はあった。今年の今日は、顔が載せられたまま頬を赤らめることしかできない。

「おっお帰り。ナナリーはどうした?」

たどたどしく言った言葉に、スザクはただいまー、と言いながらふわりと離れ、奥を指差した。部屋にいることを掴むと、早鐘を打ち出した心臓を誤魔化すように、大きなスプーンを握り、カボチャの果肉に食い込ませる。せっせと減っているのかわからないオレンジ色の果肉を抉り出す。スプーンを強く握り、白く変色している手が自分でも痛々しい。
ふと、絡み付くような視線を感じて顔をあげる。こつり、と明らかに小馬鹿にしたような翡翠と視線がぶつかり、ルルーシュの頬にかっと朱が指す。抗議の言葉を口にしようと立ち上がった。瞬間、

「しょーがないなー」

強く手に握り締められていたスプーンが奪われ、座り込んだスザクがカボチャを抱え込んでいた。

「ルルーシュはほんとに力ないな」

咲いたひまわりのような笑顔に、うるさい、と毒づくが、頬はほんのりと色付いたまま。スザクは黙々とカボチャを抉る作業に入り込んでしまったので、作りかけだったカボチャプリンやクッキーなどのお菓子作りへと戻る。丁度良く、チン、と軽快な音を立てたオーブンの扉を開く。顔を焼くような熱気に眉をしかめるが、同時に香り立つ香ばしいカボチャの匂いが鼻腔をくすぐる。火傷しないように注意を払いながら天板を引き抜き、予め敷いておいたクッキングシートの上に器用に菜箸で並べていく。ガスコンロの上の蒸し器の中のプリンも良い頃合いだ、と火を止めた。あら熱を取るために蒸し器から取出し、並べ置く。まったくすの立っていないつるつるの表面に至極満足げに笑みを向ける。一段落し、くりぬかれているカボチャの方へと視線を流した。

「あれ…?」

そこには無残に刳り貫かれ散乱したカボチャの果肉と、新聞紙だけが取り残されている。またスザクは、とため息をつくとその名を呼んだ。

「スザク!」

応答したのは沈黙で。静まる屋内を見回した。ナナリーに見せにでも行ったのだろうと自己完結すると、プリンを冷蔵庫へと収める。ぱたり、と冷蔵庫の扉を閉め、振り返ると視界いっぱいに広がるジャック・オー・ランタン。

「ほわぁああ!!!!!」

どすんと尻餅をついたルルーシュにジャック・オー・ランタンはげらげらと笑い声を上げた。ランタンはセンスのかけらも感じられないような表情で、ランタンの首から下は見慣れた道着を着ている。何よりランタンの中から溢れる少しくぐもった声が、探していた人物だと確信させる。

「スザク!」

かぽ、とランタンを取ると目に涙を浮かべたスザクが現われる。ひーひーと苦しげに息をしながら、涙を拭っているスザクに、羞恥と怒りが込み上げ、肩を震わせる。

「お前にはもうお菓子をやらない」

冷たく言い放ったルルーシュに、スザクは追い縋った。

「ごめんってー!お菓子お菓子!お菓子くれよー!」

嘘臭い泣き真似をするスザクを払い除けると、ルルーシュは椅子に腰掛け傲然と足を組んだ。鋭い眼光は絶対零度でスザクは黙り込む。

「馬鹿が!お菓子が欲しいならしっかりと決まり文句を言うんだな!」

女王様のように言うルルーシュの唇は快感に歪められる。おとなしく正座しているスザクに勝ったような気分に酔い痴れた。何分体力でも罵倒でもスザクに勝てるわけもなかったので、溜りに溜まったフラストレーションが解消されるようだった。

「決まり文句なんてしらねーよ!」

ぷっくりと頬を膨らませて言うスザクにルルーシュは高笑いする。ならば、と言葉を次いだ。

「僕の足を舐めてお願いするんだな」

組んだ足をふりふりとスザクの鼻先にちらつかせる。ふん、と満足気に鼻で笑ったが、翡翠が冷たく光ったのを見逃さなかった。
やりすぎた、と結論に至るのは難しくはなかった。だが、ここまできて退くことはルルーシュのプライドが許さない。背筋を冷たい汗が走り、今すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られるが眉間に皺を寄せ翡翠と対峙する。
シュル、と履いていた黒いハイソックスを引き抜かれ、ルルーシュの陶器のような白い脚が顕になる。

「スザク…ッ」

まるで割れ物でも扱うようにルルーシュの小さな足を目線まで持ち上げる。
瞬間、生暖かくざらついたものが親指の先端をなぞった。

「やっ…スザク…」

ぴちゃぴちゃと湿った音が響く。羞恥と背徳感にぶるりと身体を震わせる。額には汗が滲み、生理的な涙がアメジストを濡らした。いけないとはわかっていても、抵抗することはできない。

「あっ…!」

親指を吸い上げられ、一際高い嬌声を上げてしまう。ふと足元を見下げると、熱っぽいスザクの瞳と視線が交錯する。歪められた唇から濡れそぼった己の足の指が出され、糸をひく。空気に触れたそこはひどく冷たく感じられて思わず身震いした。

「ルルーシュの顔、超えろい」

頬に血液が集中するのがわかったが、言葉を口にする前に再び唇が脚に落とされる。足先に落とされていた唇が段々と上がってくる。脛を舌が走り、溜まっていた涙が上気した頬を伝った。舌が離れ、唾液でひんやりとする脚にきつく結んでいた双眸を解くと、スザクの息が頬にかかる。

「ルルーシュ、決まり文句ってなんだよ…教えて」

聞いたこともないような低い声に心臓がどきりと弾む。同時に耳朶を甘噛みされ声を上げてしまう。

「トリックッ…オアトリート…ッ」

常識だ、とこんな状況でもスザクに毒づくことは忘れない。じゃあ、と耳に熱い息が吹き掛けられる。
「トリックオア…トリック」

スザクの放ったわけのわからない言葉と同時に、持ち上げられ、床に組み敷かれる。何よりも問題だったのは、スザクの膝がしっかりとルルーシュの股間に食い込んでいることだった。

「やっ…ダメ…スザクッ」

理性とは裏腹に刺激に、敏感な雄の象徴は主張を始める。全身に電気が走るような初めての快感に、ルルーシュは生理的な涙をこぼす。道着の胸元にしがみ付きながら、必死に快感に耐えた。その間もスザクの膝はひっきりなしに動き、快感を与え続ける。
下腹部に込み上げてくる快感にルルーシュは声を上げた。

「もうダメッスザクッ!」

あっ、と短い悲鳴をあげて、ルルーシュは身体を何度か脈打たせる。乱れた呼吸を整えるように何度か深呼吸をすると、段々落ち着いてきたのか、ルルーシュは顔を真っ赤に染めて跳ね起きた。衝撃で尻餅をついたスザクが痛いなーとぼやく。

「ス、スザクの馬鹿!」

ひんやりと冷たくなってくる股間周辺がルルーシュに現実を伝えてくる。

「気持ち良かっただろ?」

あっけらかんと言うスザクに、ルルーシュはわなないた。

「お前のせいでっ…お、おも…」

と何かを言い掛けてがっくりと肩を落としたルルーシュにスザクは驚いたように目を瞠る。

「おもらしじゃないぞ?」

スザクの直球の言葉に、ルルーシュは羞恥で卒倒しそうになった。ほら、とスザクはルルーシュの短パンと下着を引き下げる。

「何するんだ!死ね馬鹿!」

脱がされたズボンと下着を上げようとするが、スザクの腕がそれを許さない。

「射精だよ」

しゃせい、とルルーシュは復唱する。下ろされた下着をよく見ると確かに今まで見たことのない白く粘ついた液体がぬらぬらと光っていた。途端に不安に襲われたルルーシュはスザクの道着の袖を掴む。

「ぼっ僕病気なの?」

今にも泣きそうなルルーシュの声にスザクは相好を崩した。思わずその黒髪に手を伸ばし撫でながら言う。

「男はみんななるから大丈夫だって」

恥ずかしそうにスザクの手を払いながら、スザクも、と問う。答えを与える代わりに払われたルルーシュの手を自身の股間まで導いた。

「スザク…ッ」

道着の下でしっかりと存在を主張しているスザクのものにルルーシュは顔を赤らめる。

「ルルーシュ射精も知らないのか…」

そうぼそりと呟くと、スザクはもう一度ルルーシュを組み敷き、股間へと手を伸ばした。射精後の敏感なそれはすぐに屹立し、愛液を滲ませる。くちゅくちゅと親指で鈴口を弄ぶととくとくと先走りが溢れる。

「スザク…ッ」

器用にぷちぷちとルルーシュのシャツのボタンを外すと、平らな白い胸を飾るピンク色の肉粒に吸い付く。ざらざらとした触感にルルーシュの肌が粟立つ。

「やぁ…スザクッ」

ぷっくりと突起した果実を舌で押し返したり、軽く歯を立てたりする度にルルーシュが甲高い嬌声を上げ、空ごとのようにスザク、スザクと呼ぶ。スザクも己の性器を取り出すと、ルルーシュの性器とともに上下に刺激を与えた。
ぐちゅぐちゅと淫猥な水音と、荒い呼吸が響く。

「あぁっスザクッまたっ…」

「いいよルルーシュッ…」

二人で快感を駈け上る。ルルーシュが果てた嬌声と表情に、スザクも達した。

「どうだった、射精」

生理的な涙をいっぱいに浮かべ、顔を染めたまま荒い呼吸をするルルーシュに、スザクはわざと問う。すると、ふいと視線を逸らしルルーシュはバカ、と呟いた。

「ルルーシュ、トリックオアトリート!」

タイミングが遅い、とは言わずルルーシュは頬を染めたまま一つ、ため息をついた。



この後、スザクがお菓子を貰えたかはまた別のお話。




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