短編

□ふわりと笑う君はわたあめ味
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甘い。

「雲雀ー!」
笑いながら駆けて来る少女の名は有香,ほんの少し前から付き合い始めた背丈のちいさな女の子。
「聞いて,今日ね,実験で試験管5本落っことしたのに一本も割らなかったの!すごいでしょ!」
「すごいね」
放課後,笑いながら応接室に駆け込んでくる有香はふわふわしていてあったかい,春の香りを纏ってやってくる。
その香りに覚えがあるような,無いような切ない香り。

「ねぇねぇ,」
君の話は始まればとどまるところを知らず,いつまでも話し続ける。
内緒話をする子供のような甘い甘いソプラノ声がとても耳に心地よい。
「何,――」
ぎゅう。
抱きしめられた腕はあったかい,有香の香りがした。
「雲雀,好き!だいすき!」
「ふぅん。そういえば,これ何の香り?」
「なーに?」
小首をかしげる姿はたぶん,この世界で一番愛らしい姿だと思う。
「有香からする香り」
「これね,わたあめの匂いだよ」
「…わたあめ?」
「うん,あたし,わたあめ大好きだから」

そういって君は手を離し,僕に向かってふわりと笑った。

「あ,でも大丈夫!世界でいちばん好きなのはわたあめじゃなくて雲雀だから!」
「…僕も,有香がいちばん好き」

わたあめの香りも小首をかしげる姿もソプラノ声もみんなみんな。


みんなみんなまとめて,初めてこの子が好きだといってあげられる。




「有香?」
いつのまにか彼女は僕の膝の上で眠っていた。
「起きて,帰るよ」
耳元で囁くと,またわたあめの甘い香りがする。
「起きないの?」
「んぅ…」
「帰るよ?置いてくけど,」
「嫌ぁあああ!!帰る!」

外に出た。少し寒い。
僕は有香の手を握ると,歩き出す。
君の香りに,話に耳を傾けながら。


ばかっぷる可愛い最高。

お題拝借→雲の空耳と独り言+α
 

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