短編

□どこに行けば会えるの?
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*記憶喪失、事故 苦手な方はお戻りください



あの日の君は、



ふわり。
結っても編んでも切ってもいない、腰までの長髪が風に揺らいだ。


「有香」
「ん…なぁに?」

瞳は今日も絶賛渦巻き中。
くるくるくるくるくる、飽きることも無く廻っていた。
何かを探すように、めまぐるしく。
なくしてしまった大切なおもちゃを探そうとしている小さな子供のように。

まぁ…それが、探し物だということに間違いは無い。


「ねぇ…恭弥、どうしたの?私、顔に何か付いてるの?」
「… ううん。なんでもないよ」
くるくると廻り続ける瞳はさまざまな色に変わり、この世に在りうる全ての色彩を一度に見ることができる。
瞳に見とれたまま、時間が過ぎ行く。
「なんにも言ってくれないと…不安になっちゃうよ、」
「ごめんね、有香」
「うん。」

探し物は続く。
時折―――…


キキイイイイイィィィィ!!

ショートカットの綺麗に整えられた髪の毛が水平に弧を描き出す。
彼女は見た。
小さな子供が***そうになっている。
彼女はたまらず、身を乗り出した。
****は止まらない。
ブレーキすら役目を果たさない。

どぅぅぅぅううぉぉおおおぉんん…

「いやぁぁぁああああぁぁっぁぁあ!!!」

幼女の悲鳴が、彼女の耳に届いたかは解らない。



「いやぁぁぁああああぁぁっぁぁあ!!!」

そっくりな悲鳴。

「きっ…きょ、きょーや…」
「…? 有香?!何が、」
たどたどしい。酷く顔が青白い。
「わっ…わ、わか、んなっ、いっ…」
「何か、思い出したの?」
「いや、痛く、て、すごい、こわっ、怖かった…の、」

渦巻いていた瞳が、固まる。
涙が溢れ出す。
嗚咽すらも挙げる余裕がないのか、有香は固まって僕の腕にしがみついたまま離れようとはしない。

ただ、静かに涙を流す。
蒼白の顔が、涙が沁みていく長髪が、声すら上げられない喉が、

「大丈夫、ずっといるから」
「ふ…ふぇ、ふぁ…」



「かなり、危ないです」
そいつは彼女を見て言った。
「身体は傷ひとつ無く、まさに奇跡といっていいでしょう」
いまだ眠るその身体には、なるほど傷が無い。
「しかし、精神的な後遺症が激しいと想われます」
「極度の幼児退行、記憶喪失などが間違いなく現れます」
「精神年齢も著しく低下しているでしょう」

つまり。

もうあのショートカットで気の強い優しい彼女は帰ってこないということだ。



「うん、安心して」
「うん…ふぁ、ふぇぇぇぇぇん…」
今度はかすかに声を上げて泣き始めた。

探し物。

それは唯一つ、この世にひとつしか存在しない―――


「…すっ、すすすすっ…」
「…煤?用事が無いなら帰ってくれる?」
応接室を訪れた彼女に、そういった。

「ち、違うんです!!!


…好きなんです!!!!!」

顔を赤くしていった彼女がとても愛らしくて、


「有香、有香、」
「ふぇ?」
「愛してる、」

抱きしめた記憶がある。





―――僕との記憶だろうか?


帰ってきた彼女は、全て失っていた。
親は彼女を見捨てた。
その代わり、僕が彼女を引き取った。
ときどき取り乱したり、涙を流したりしたけれど、

とてもとても愛しい。

けど。

いくら愛しても、愛しても

あの日の君は帰ってこない。




(全て失ったあの日かな?)
(とにかく、あの日の君に逢いたいよ)



*

うん。解りにくいですね。はい。
記憶喪失を描こう!としたらこうなりました。
精神的に重過ぎるよこれ。
続編書かないと…←

お題提供元*モノクロ メルヘン様。

 

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