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 佐藤くんの家に着き、いつも
 のように彼がポケットから鍵
 を探してドアを開ける。


 いつもは、おじゃまします、
 と言って家に入り、佐藤くん
 からシャワーを浴びる。その
 後俺がシャワーを借りて、ベ
 ッドへ行く。たまにだけど、
 俺がシャワーを浴び終えてリ
 ビングへ向かうと、美味しそ
 うなご飯が作ってあって食べ
 たりもする。





  . . . . . . .
 機嫌がよければの話だけど。




 「おじゃまします」



 店に居るときからなんとなく
 気づいていたけど、残念なが
 ら今日は機嫌が最悪のようだ
 。普段から怖そうな目付きが
 一層怖そうだよ、怖い。だけ
 どもう慣れた。



 「佐藤くん、先にお風呂…」


 佐藤くんは黙ってソファに座
 り、煙草を出し始めている。
 ……?やりたくて誘ったんじ
 ゃないのかな?でもそれ以外
 に俺を呼ぶ意味ないし。


 「さ、佐藤くん……?怒って
 る……?」


 俺が聞くと、佐藤くんは俺の
 方を見て、眉間にシワを寄せ
 る。


 「ベッド」


 「え……、佐藤く、待って!
 まだシャワー浴びてな……」


 佐藤くんは俺を無理矢理寝室
 へと連れ去って、ベッドに放
 り込む。さっき出していた煙
 草に火をつけて、くわえなが
 ら俺の服を脱がしている。


 「佐藤くん、どうしたの?、
 なんでそんなに機嫌悪…?」


 俺の頭に「?」のマークが浮か
 んだ。佐藤くんは脱がした俺
 のシャツで俺の腕を縛り上げ
 ているのだ。こんなのは初め
 てだし、流石に焦る。どうし
 て?何で今日はこんなに機嫌
 が悪いの?





 機嫌が悪い?



 自分で思って気付いてしまっ
 た。


 機嫌が悪いも何も、元々俺は
 佐藤くんにとって玩具でしか
 ないんだから、俺に優しくす
 る必要も、俺の質問に答える
 必要も無いんだ。


 「佐藤く………、………っ」


 気がついたら涙が出ていて、
 思わず目を閉じた。


 俺達は恋人同士なんかじゃな
 い。

 甘いキスもしてくれない。

 だって俺がそう望んだんだか
 ら。


 「っ、あ………、っ…」


 佐藤くんが俺の乳首に舌を這
 わせて強くキスをする。

 少し痛いけど、俺、佐藤くん
 の為なら何だって耐えられる
 よ。耐えてきたんだよ。


 「佐藤く、……っ、待っ…」


 佐藤くんは泣いてる俺に構わ
 ず、ズボンと下着を脱がせて
 俺をうつ伏せに寝かせる。そ
 して、無理矢理後ろに指を入
 れた。痛みに体が震える。

 いつもはいくら酷くてもロー
 ションを使ってくれるし、前
 を触ってからしてくれるのに
 、今日は殆ど強姦に近い。



 「いや……、だ、痛…っ」



 とっさに出てしまった言葉に
 息を飲む。俺の言葉に、佐藤
 くんの動きも止まっていた。



 『嫌だ』



 そんなこと今まで思ったこと
 無かったのに、無理矢理され
 る内に零れ出てしまった。

 俺は佐藤くんになら何をされ
 ても嬉しいんじゃなかったん
 だっけ……?




 「佐藤く、っ、ごめ、嫌じゃ
 ない、…あ!?」



 佐藤くんがまだ解したばかり
 のそこの中で一気に指を動か
 す。行為に慣れているとはい
 え、元々何かを入れる為に作
 られた訳ではないそこは、気
 持ちよくもなんともなく、た
 だ激しい痛みだけを感じとる。



 「いた、い……よ、佐藤く、
 抜いて……っひく、…佐藤く
 、…ん、何で、…っ怒ってる
 …の……?」



 佐藤くんは煙草の煙を吐き捨
 てて俺を睨みつける。もう涙
 で視界がぼやけて、何が何だ
 か解らない。


 お客さんの話で聞いたことあ
 るな……。



 *************


 (ヤってる最中に煙草とかま
 じありえなくない?)


 (うわあ、愛されてないね)


 (あたし、やりながら吸って
 るのとか、終わった後すぐに
 煙草吸うのって、飽きられて
 るサインって聞いたことある
 よ)


 (へえ、初めて知った)



 (やっぱあんたさ、)




  . . . . . .
 (愛されてないよね)



 *************


 「怒ってねえよ」


 「怒ってる、よ……っ、俺が
 何かしてたら、謝る……っ、
 か、ら……っあ、あ、」

 「怒ってねえっていってんだ
 ろ?」


 思い出したくもない記憶がよ
 みがえって、涙は余計に溢れ
 だす。



 髪を後ろから捕まれて、俺は
 佐藤くんの正面を向く。

 長い前髪の下の綺麗な目は、
 轟さんを見るときのような穏
 やかで優しい目じゃない。

 嫌らしい俺を嘲るように、た
 だの玩具を見る目で見下して
 くる佐藤くんに、思わず心が
 傷んだ。


 佐藤くんとこんな関係になっ
 たのは今日が初めてな訳でも
 ないのに、どうしてこんなに
 胸が苦しいんだろう。


 涙が首筋を流れて、髪を濡ら
 す。みっともない、こんな姿
 佐藤くんに見られたくない、
 そう思っているのに、涙は一
 向に止まらない。


 よく「涙が枯れるまで」なんて
 言葉を聞くけれど、俺はこの
 言葉が大嫌いだった。だって
 俺が、佐藤くんを思ってどれ
 だけ涙を流したと思う?自分
 から望んで体を差し出してい
 るのに、いざそういう行為を
 すると怖くなって、辛くなっ
 て、どれだけ泣いたと思う?




 現にほら、

 あんなに泣いたのに、

 まだ俺は泣いている。



 俺が頭でそんなことをぐるぐ
 ると考えていると、佐藤くん
 は無理矢理俺の口に自身を入
 れて、俺の頭を掴んだ。

 そのまま激しく喉を突かれて
 、噎せたくても噎せられない
 状況に陥る。



 「ん、っ、う……っ、んん、
 !………っ、!」



 急に行為を強いられて、酸素
 が吹き飛んで目を見開く。

 苦しいよ、辛いよ、でも佐藤
 くんだから許してあげる。

 必死に舌を使って舐め上げて
 、喉に当たるそれを吸い上げ
 る。佐藤くんは俺の口の中で
 果てて、欲を吐き出した。

 俺はこくんと飲み干して、佐
 藤くんを見上げる。佐藤くん
 はまだ俺を冷たい視線で見下
 している。


 もしも俺が、佐藤くんにセッ
 クスしようなんて言わなかっ
 たら、こんなに冷たい目で見
 られることは無かった?

 今まで通り、佐藤くんや皆と
 仕事をして、ただの友達とし
 て居られた方がよかった?


 「さ、とう………くん…?」


 佐藤くんは煙草の煙を吐き捨
 てて、俺をお尻を突きだすよ
 うな体勢にさせた。そして、
 さっきまで指を入れていた所
 に、自身をあてがった。

 「待って、…、まだ……っ、
 ……!」


 もう何もわからないよ。

 結局俺は一体何がしたかった
 んだろう?体だけでも佐藤く
 んと繋がろうとして、誘って
 、酷くしてもいいよと言って
 。でも今日みたいに酷くされ
 たら嫌だと泣いて。



 もう限界だ。




 痛みに耐えることが出来なく
 なって、俺は佐藤くんを受け
 入れながら泣きわめく。嫌だ
 、止めて、痛い、酷い、と。

 こんなの贅沢だってわかって
 るけど。


 「っ、ああああ、…っ、ひく
 、やだよ、…っあ、抜いて、
 佐藤く、っあ、ああっ」


 涙で歪む視界に、見慣れたシ
 ーツのシワ模様。何回佐藤く
 んと体を重ねたかはわからな
 いけど、きっと佐藤くんにと
 ってはそんなことどうでもい
 いんだろうな。



 体とかじゃなくて、ただただ
 佐藤くんに好かれたかった。


 「っあ、!…ひぁ、…っ、あ
 ああ、っ…ん、さと……く、
 さとう、くん、っ…」


 ギシ、とベッドが軋む音。

 この音も、自分の気持ち悪い
 喘ぎ声も。みんなみんな、聞
 き慣れた。


 引き抜いて激しく突くのを繰
 り返して、肌と肌がぶつかり
 合って音がなる。今、佐藤く
 んと繋がってる。


 「あ、やら、っ、……あっ、
 イっちゃ、っあ、!……っん
 あ、」


 痛みは消え失せ、突かれる度
 に抑えきれない声が出て、頭
 の中が点滅する。


 どうせ愛されないなら、全て
 欲のままに動けばいい?


 「さと……、くん、っ……ぁ
 、出して……?…っひく、中
 で、…出して、……、」


 佐藤くんが俺の中で果てる。
 二回目だからさっきほど量は
 多くないけど、お腹の中に温
 かいものが注がれて、俺も同
 時に果てた。


 佐藤くんは少しだけ荒かった
 息を整えて、また煙草の煙を
 吐き出した。



 「っあ!!…、」


 そしてそのまま自身を引き抜
 いて、いつもだったらシャワ
 ーを浴びに行くか寝るかのど
 ちらかしかないのに、珍しく
 俺の顔をじっと見ている。

 俺はびっくりして、つられて
 佐藤くんを見つめ返す。そし
 て佐藤くんは、煙草をベッド
 の脇の灰皿に押し付けて、口
 を開いた。


 「……お前は、俺のことが好
 きか?」

 「え……?」


 突然の展開に頭がついていか
 ない。第一に、俺は佐藤くん
 とこんな風に会話をしたこと
 がほとんど無い。第二に、何
 故こんなことを聞かれている
 のかわからない。


 「……好きじゃなかったら、
 こんなことしてなんて自分か
 ら言わないよ」


 「でもお前は俺が轟を好きだ
 と思ってるんだろ?」


 「……そうだよ。だって佐藤
 くんは轟さんのことが好きだ
 って言っ……。まった」

 心臓の音が尋常じゃない位の
 速さで鳴っている。おかしい
 な、なんで今ちょっと嬉しい
 んだろ?


 「今佐藤くん、好きだと思っ
 てるって……」


 「俺が好きなのは轟じゃねえ
 」



 「」


 俺は思わず押し黙ってしまっ
 た。そして一瞬、頭の中によ
 からぬ言葉が思い浮かんだ。



 (佐藤くんが好きなのは轟さ
 んじゃないって、)


 (うれしい)


 (もしかしたら、少しは俺の
 こと………)



 そこまで思い浮かんで、俺は
 自分が怖くなった。今、俺は
 何を考えた?違う、だって佐
 藤くんが俺のことを好きにな
 る確率なんて、無い。佐藤く
 んは俺に冗談を言ってるんだ
 。それとも実は店長とかが好
 きなのかな?それとも種島さ
 んとか、伊波さん?大学とか
 の人かな?


 必死に考えて、考えて、俺は
 さっき頭をよぎった言葉を誤
 魔化した。でも、いくら別の
 ことを考えても、頭からこの
 感情が離れない。



 (うれしい)



 佐藤くんは押し黙る俺を、何
 か言いたそうにしながら見て
 いる。そして俺は、だるい体
 を起こして、急いで服を着て
 立ち上がる。


 「?、おい相馬、お前……!
 ?」


 急に身支度を始めた俺に、少
 し慌てた様子で声を掛ける。
 やめて、話かけないで、勘違
 いしたくない、させないで。




 俺は佐藤くんの家から飛び出
 した。





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