命のナマエ

□(9)
3ページ/8ページ









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




あれはエドラスを出発して数日後、
旅の途中の出来事だった。



「ハレン!!ナズグルじゃ!」


ガンダルフが叫ぶ。
あたし達は突然、2人の黒の乗り手に出くわした。

ガンダルフに続いて、馬を走らせる。
馬の加速度をあげるものの、彼らも距離をつめようと追いかけてくる。


「急いでっ!」


愛馬に訴えかけ、必死にスピードをあげる。
そのまま草原を突っ切り走り続けた。
木々の間をくぐりぬけるのも至難の業だ。

何度かナズグルが追い上げようとするのに対抗してきたが、一人のナズグルがついに隣に並んできた。

目の前に川が見えて、そのまま走りこむ。
水の流れは早くは無いが、これ以上逃げた所であまり勝機は望めない。

ガンダルフだけなら可能だっただろう。

でも、今の現状はナズグルに追い詰められており、もはや逃げ場などなかった。



「ガンダルフっ…!」



じりじりと詰め寄ってくるナズグルに、後ずさりする。
バシャバシャと水は跳ね上がり、衣の裾を濡らす。
目の前の幽鬼と対峙すると同時に、恐怖が湧き上がった。


一人のナズグルがこちらに視線を向ける。
ゆっくり腕を上げ、あたしを指さしたのでびくりとした身を縮めた。


幽鬼は低くおぞましい声で言い放つ。



「…その女を渡せ。
ソレはこっち側の人間だ。」


その言葉はあたしに重たくのしかかる。
完全に偽りなれば、全否定できる。

でも、あたしの中には彼らのように大きな闇が宿っている。
そして時折、それが心までも飲み込み支配する。



「お前は分かっている。
その中にある力はこの世界を支配するものだと。
我々とお前は同種だ。」



「どう、しゅ…」



唇が震える。

やめて、それ以上思い出させないで。



「ハレン!
奴らの言葉に耳を傾けるでない!」


ガンダルフの声が響く。
だけど、何を言っているかまでは聞こえない。


心は当にぐちゃぐちゃにかき乱されて、明るい感情も未来に対する希望も湧いてこない。


変わりにひどく乾いた冷たい感情が蘇り、
灰蓮は眩暈がしそうになった。


喉もカラカラになり、今にも呼吸は乱れそう。



「サウロン様がお呼びだ。」


幽鬼はさらに追い打ちを掛ける。

凶器にも似た言葉は胸を打ちつけ、安らかな心を破壊する。



サウロン、
この世界に来てしまったのも、全て彼のせい。

青い髪の女性、ルインロリアンが語ってくれている。

彼があたしの力を望んでいる。


でも、もうあんな力は使いたくない。
誰も傷つけたく、ない。



「黙れ、幽鬼ども。」



涙がにじみそうになると、
目の前の灰色の魔法使いは彼らに向けて、厳しく非難する。


「ハレンはわしの弟子じゃ。
お前らの仲間扱いにするなんぞ、このわしが許さん!!」



「ガンダルフっ・・・」


「運命(さだめ)には逆らえぬ。」


「運命とはその者に課せられた役目。
人の生きざまを定めることは誰にも出来ん!」


怒りを露にした彼の言葉にあたしは胸を打たれる。


「フッ、確かめるがいい」


ナズグルたちは恐ろしい声を上げ、さやから剣を抜いた。
ガンダルフは彼らに対抗し、杖を構える。


その場に緊張が走った。

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ