命のナマエ
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ごく普通の単純な動作
手のひらを広げる
ずっと昔、その手の中にはたくさんの光があって、
あたしの心もそれで満たされていた
この世界に来た頃、確かに輝きを放っていた光。
けれど後にだんだん弱まる。
あの日、ぎゅっと握った瞬間、空に溶けてしまったから、
今は心さえも、黒いもやが根を深くおろし、最期の光も飲み込んでしまった――
05 fear -恐怖-
あれから数日間、経った。
2年前からの感覚がなかなか抜けない。
あたしはベッドからあまり動かず、毎日ぼーとした生活が続いた。
ガンダルフから聞けたのは、
あたしが当時サウロンと戦った女性の生まれ変わりだということ。
その女性が、聖なる光の使者と呼ばれていたそうだ。
不思議な光の力を宿し、人々の心と傷を癒したのだと。
そう聞いたけれど、あたしは到底信じられそうに無い。
夢では、たくさんの過去を見た。
ほとんどが悪夢で、やはり心に負った傷も悲しみも深い。
毎日、泣いた。
ガンダルフは時折、部屋を訪れてくれた。
だけど、もう泣き顔は見せなかった。
いつも静かに泣いた。
声をあげる資格なんてないと思った。
「そろそろ、外に出てみんか?」
ガンダルフは調子はどうだとかお決まりのことを聞いた後、その言葉をいった。
「・・・」
あたしは首を振った。
「じゃが、体に悪かろうて。
そもそも数年まともに外にでてないじゃろう?
外の空気を吸いたくはないか?」
「いいえ、外にはでたくありません。」
あたしは頑なに拒否した。
もうこの世界との関わりを持ちたくない。
これ以上、誰とも繋がりたくない。
「せめて何かちゃんと食べなければ。」
「はい。」
あたしはこの数年でかなりやせたらしい。
顔の頬がこけているので、ガンダルフはあたしに食べ物を最近よくすすめる。
「これはレンバス、エルフが作った焼き菓子じゃ。
今はこれしかないが、すぐに何か注文してこよう。」
「レンバス?これが?」
聞き覚えのある言葉に思わず聞き返した。
ガンダルフは包みからそれを取り出し「食べなさい」といった。
そういえば昨日は何も食べてない。
あたしの体はお腹がすいていても全く気づかないし、食べたいとさえ思わないのだ。
「ありがとう。」
ガンダルフは「やれやれ」という顔で、それを手渡した。
ほっと共に、まだまだ難題ばかりだとこの先が思いやられた。
彼女には多くの問題がある。
「(しかも、心と体と両方じゃな。)」
それをガンダルフは感じていた。