命のナマエ

□(3)
3ページ/4ページ





――灰色の衣を着た魔法使い・・



“貴方はなんであたしを助けるの?”


そう聞いたような覚えがある。


返ってきた言葉はどんな言葉より単純で優しくて、まるで木漏れ日のよう。



“お前さんを救いたいからじゃ”



その人は何故か微笑む。

それを心地よいと、その優しさに縋りつきたいと思ってしまうのが不思議で。

胸の奥からこみ上げてくる暖かい感情は幸福感なのだろうか。
彼の存在にいつも、温もりを感じていた。




「何を言おうとわしは、その子を救ってみせる。」


「やってみるがいい、灰色のガンダルフよっ!」


バシッッッ!


「この役立たずが!!」


「すまんのう。わしはあんたを助け出す事が出来んかった。」


「何としても、この子を助け出したい・・・」







「さぁ、一緒に逃げるのじゃ、光の中に戻りたいじゃろう?」






そう思ってくれたことも、言ってくれたことも嬉しい。
もちろん、あたしを此処から連れ出そうとしてくれた事も。

きっと永遠に感謝すると思う、だけど・・・・



(もういいよ。)



ねぇ、もうやめて。



こんなあたしに、優しくしないでいいから。



もういいよ。


逃げて何になる?
光を求めてどこに行く?


この胸の痛みを深い暗闇に閉じ込めて、
この記憶をもみ消して何になるの?



ねぇ・・もういいから。




「光なんていらない」





闇を照らし続けるだけのヒカリなんて、ほしくない。
光なんてただの明かりだ。
幻に過ぎないの、そんなものいらない。


それよりも、あたしを闇に放り出して二度と出さないで。


けれど、あたしは灰色の魔法使いに連れられ塔を離れる。
あたしの全てを変えたあの忌まわしき場所から遠ざかってゆく。




この世界に来て2年後がたつ、今。
再び目を開けたのは、真っ白なベッドの上。

そして待っていたのは、憧れた世界と旅の始まりだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ